2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」の第3話(1月19日放送)ネタバレ&あらすじを読みやすい吹き出し形式で記載します!
蔦重の才を認めているからこそ
私は怒るのだぞ…
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:細見鳴呼御江戸
これが蔦重の作った細見…
唐丸がパラパラと細見鳴呼御江戸をめくっていき、最後の項のある個所を見て手を止めます。
…蔦重、これ、入れちゃっていいの?
まあ、俺のってのは言い過ぎだけどな
最後の真を開いた唐丸が、ある箇所に「ん?」と目を留めました。
そこには
細見改、蔦屋重三郎
と堂々たる署名が入っています。
なんで俺の名が…
蔦重、鱗形屋さんに、隠れてやっていること、言った?
吉原の女郎屋や引手茶屋は、吉原細見が出ると一定部数を買い取り、なじみ客などに贈呈する決まりとなっています。
そのため発行元の鱗形屋は、吉原細見が出来上がるとお披露目の席を設けることになっており、「鳴呼御江戸」も駿河屋でお披露目が行われました。
吉原の親父たちの評判は上々でした。
そして「序」はあの平賀源内が書いていることを知った親父たちはどよめきます。
おい、これ売れんじゃねぇの?
客も増えるんじゃねぇの!
蔦重が序をお願いしてくれたのですよ
鱗形屋は「よかれ」と思って言いました。
うちの…重三郎がでございますか…?
えぇ、吉原に客を呼びたいと必死で、
女郎や店もずいぶん丁寧に改めてくれまして
奥付に蔦重の名前を発見した駿河屋は、表向きの表情は穏やかにしていますが、怒りがこみ上げてきます。
はぁ!「改 蔦屋重三郎」ですか!
湧き上がる怒りを溜め込みつつ、駿河屋は仏顔を崩さず寛容に笑いました。
飛んできた花瓶が壁にぶつかって砕け散ります。
間一髪でかわしましたが、蔦重はびっくり腰で固まってしまいます。
駿河屋の激怒っぷりは凄まじく、花を立てていた次郎兵衛と唐丸も凍りついています。
テメなんだコラ俺に断りもなく……
あ、あ、あ?
と懐から出した細見を丸めて蔦重のおでこを小突きます。
なんだコラ細見改 重三郎って!
細見でパーン!額に強烈な一撃を食らい、蔦重はたまらず尻餅をつきます。
細見の改は続けさせて…
と最後まで言い終わらぬうちにパーン!
貸本の次は改か。
テメいつから本屋になったんだ、あ?
き、客はどんどん岡場所や宿場に流れてんです!
しかもお上も取り締まらねぇ。
テメエらで何かしなきゃ、吉原に客は戻って来ねぇんですよ!
は。こんなもんで客が戻ってくるってのか
来ます!平賀源内の序は必ず、吉原まで客を引っ張ってきます!
あめぇんだよ。
こんなもんで客を引けるわけねえだろ!
駿河屋は鼻で笑い、座り込んでいる蔦重の頭目がけて足を上げました。
殺される!蔦重はとっさに両腕で頭を抱えます。
やめてー!
止めようとした唐丸は駿河屋の着物を掴み損ねてすっ転び、結局蔦重は蹴り飛ばされ、震えながら父親に突進した次郎兵衛は顔面に裏拳を食らい、三人揃ってあえなく撃沈したのでありました。
雷親父が暴れまくったせいで部屋は滅茶苦茶、まるで嵐が過ぎた去ったあとのようです。
部屋を片付けていた蔦重は、ヨレヨレになった細見を拾い上げてじっと見つめました。
重三。もうソレやめとけ、な
と次郎兵衛が忠告します。
けど、客が来たら、親父様も認めてくれたりしませんかねぇ
お前、まだ懲りないの?
だって、このままじゃ廃れるばっかりじゃねぇですか、吉原は
蔦重は細見を開き、源内の序に書かれた”吉原”を愛おしそうに指でなぞったのでした。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:どっさどっさ?
その正月、源内は手土産をもって田沼意次の屋敷に新年のあいさつに訪れました。
思いのほかいけましょう、この雑煮
白みそ仕立ての雑煮は、源内の故郷の讃岐(香川)の郷土料理であんころ餅が入っています。
うむ。甘みと塩気思いがけぬ取り合わせだ
あ、忘れておりました。
こちらお年玉にございます。
源内が「細見鳴呼御江戸」を取り出します。
時に源内、残父の山はどうなっておる
残念ながら銀は埋まっておらぬかもしれませんな。
しかし、鉄は出る。鉄も掘っておいて損はございませんかと
事実、仙台の伊達藩などは鉄銭を鋳造して大儲けしているのです。
一方、源内から渡された細見をぱらぱらとめくっていた田沼意次の息子の意知は言います。
父上、このもの、昨年いきなりやってきた吉原者では?
意知が意次に奥付の名前を見せました。
なぜ蔦重を知っているのかと言えば、以前蔦重が無謀にも「けいどう」の嘆願にきた時、たまたま庭の茂みから一部始終を見ていたからなのです。
…ありがた山の寒がらすか!
あぁ、それでそなたに序を!
ならば吉原にも人が来るようになるか!
そりゃもう、どっさどっさにございますよ!
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:なぜか客が来ない
「嗚呼御江戸」はその後よく売れたはしましたが、吉原に客が戻ることはありませんでした。
細見そのものはよく売れてるんだけどな…
鱗形屋では、首をひねる蔦重と鱗形屋の親父の姿がありました。
こりゃどういうカラクリなんでしょう…
源内か、ならちょいと読んでみよう!と細見をかうものの、
読んだだけで終わっちまうのかもしんねぇな…
この手の本は、一度読んだだけで終わってしまう者が多いようでした。
ため息をつく蔦重に、鱗形屋は笑いながら言います。
で、次はどうする?
駿河屋さんは「改」におかんむりなんだっけ?
そうなんでさ…
しかしなんでかね。
改は茶屋に差しさわりがあるような仕事ともおもえねぇが…
まぁ、俺は親父様に拾われなきゃ死んでたかもしれねぇ身の上ですから
そんな奴が出過ぎた真似すんのが気に食わねぇんでしょう…
蔦重のため息は重くなるばかりでした。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:賢丸を養子に?
松平家が田安の賢規様を養子に?
その夜、父から話を聞かされた意知は、不得要領に眉根を寄せました。
諦めきれぬようでな。
なんとかならぬかと再び言ってきた
意次が意知に書状を渡します。
そこには、興州自河藩主・松平定拠の訴えが切々と書かれていました。
なにゆえ、白河様はこれほどまでに賢丸様を
「吉宗公に近いお血筋の婿をもらって、とにかく家格を上げたいんでしょうな」
そばに控えていた三浦庄司が、やれやれというように小さく首を振ります。
三浦は農民の出でありながら田沼家用心の養子となり意次の側近となった男で、意次の良き相談相手です。
しかし、先の折にはそれこそ当の田安家のみならず、白眉毛、上様までもが難色を示され、断りを入れたのではなかったか
意知の疑問に三浦が答えます。
「あの時はまだ田安の先代が生きておられ、先代は将軍の座へ未練が深いお方であったゆえ、『白河へなどやるか!』と、それはまあけんもほろろで」
その先を意次が続けました。
その先代も今や亡くなられた。ゆえに今一度、ということであろう
…しかし、この一件蒸し返せば、相当に煙たがられるのでは?
近い将来、父が主導する幕政の一翼を担うであろう有能な後継者であるが、まだ経験の浅い意知の頭には次々と疑問が湧いてきます。
だが、見返りもなかなかに大きくてな。
さて、どうしたものか……
意次は思案顔になり、膝がしらを指でトントンと叩きました。
「上様から直々に、兄上に問いかけがあったのですか・・・・・・」
田安家の一室で、賢丸は治察と向かい合っていました。
そばには尼頭布を被った治察の生母・宝道院も控えています。
麻子の賢丸には養母に当たる、公家の近衛家から興入れした高貴な女性です。
「上様はそなたの才をいたく買っておられてな。ほかならぬそなたのために白河へ行き、領内の仕置きに腕を振るうほうが良いのではないかと」
治察はむしろ自慢げで、賢丸は答えられずにいます。
代わりに宝蓮院が血相を変えて訴えました。
甘言にございます!
上様はそうやってわれら田安を退けたいのです!
「母上。上様は然様なお方ではございませぬ。心から賢丸のことを」
そなた、無念のうちに逝かれた父上のことを忘れたのか!
治察は返事に詰まりました。
第八代将軍吉宗の次男だった父の京武は、渇望した将軍の座に就くことなくこの世を去ったのです。
兄上。返事は兄上が後継を得てから、とは参りませぬか。
将軍家はいざ知らず、私が家を出てはまさかの折に田安を継ぐ者がいなくなってしまう。
申し上げにくいですが、兄上はお体もお強くないわけですし…
「そこは私も案じてな。まさかの折はそなたを呼び戻してよいとのお言葉を上様から直々にいただいて参った」
と書状を示すのです。
「そのうえで、どうする?賢丸よ」
家治直筆の書状を見つめ、賢丸はゴクリと息を呑みました。
「それは承服しかねる!この一件すでに決したはず!なにゆえいきなりかような話になる!」
意次から老中たちへ賢丸の白河行きが告げられると、武元は烈火のごとく怒りだしたのです。
は。此度は白河松平家より『桜』のほうに再度訴えが参りましたゆえ、側用人としてまず上様にお取り次ぎ申し、上様より田安家へお話が
意次はもともと将軍と老中の間を取り持つ側用人で、家治の借頼厚く、老中に昇進した今もなお役職を兼任していました。
意次が幕府の実権を握る所以なのです。
「黙れ!黙れ黙れ!そなたが甘言を弄し、上様を丸め込んだのであろう!」
今のお言葉、上様が私ごときに丸め込まれたということになりますが、お取り次ぎ申し上げたほうがよろしうございましょうか
武元がグッと詰まります。
この勝負、軍配は意次に上がったようです。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:吉原の危機
さて、蔦重は貸本の荷を背負い、唐丸と仲の町を歩いていました。
蔦重、細見の改、このあとどうすることにしたの?
親父様の様子を見つつ、
鱗の旦那も一緒に三人で話す場を持とうって言ってんだけど
二人が話しながら歩いていると、女街の男に連れられていく女郎の姿が見えました。
嘘だろ
あれは……二一文字屋の音羽です。
蔦重は弾かれたように駆け寄ります。
おい!おい、姐さん!これ、まさか
「あぁ、重三。世話になったねぇ」
先を歩いていた女街が振り返って「何やってんだ!」と怒鳴ります。
「じゃあね、新潟の古町にいるからさ、おさらばえ!」
音羽はいつもの明るい笑顔で吉原を去っていきました。
河岸見世にもいられなくなった女郎はこうして田舎に売られていくか、夜鷹と呼ばれる最下層の街娼になって辻に立つしかないのです。
蔦重の足は自然と二文字屋に向かいました。
行灯部屋には五人もの女郎が寝かされていて、若いちどりもひどく咳き込んでいます。
胸の病か梅毒か……いずれにしろ栄養失調には違いありません。
朝顔の最期が思い出される。蔦重が痛ましそうにその様子を見ていると、女将のきくがやってきくが言います。
もう、見世畳んじまおうと思ってんだ
きくは続けます。
女郎なんて、売られてきてほかに生きる術がない。
とりわけここに来るのは大店なんかじゃ弾かれちまう女たちさ……。
このらはわっちが手を放したら終わりだって思ってやってきたよ。
けど、もう、わっちが手を握ってるから命を縮めちまうって体たらくでさ
と声を詰まらせます。
かつて自らも吉原の女郎だったきくにとって、見世の女たちは娘も同然なのでしょう。
女将さん。もうちょいと、ちょいとだけ耐えてもらえませんか。
俺がなんとかしますんで
は。あんたにどうにもできるわきゃないだろ
どうにかします!俺もやっぱりこんな吉原よかないと思うんで
その帰り、蔦重は九郎助稲荷に立ち寄りました。
どう思う。もうこれしか中橋だと思うんだけど
何事か相談されたお稲荷さんは心なしか困ったような顔つきで
「なかなか危ない橋だと私や思いますけどね」
と言っているようです。
しかし、蔦重は心を決めたのです。
…おし。じゃ、行ってくらあ!
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:二文字屋を守りたい
数日後、花の井からの文を握り締め、日本堤を必死の形相で走っている平蔵の姿がありました。
松葉屋の二階の座敷に通され、やがてさくらとあやめを引き連れた部屋の主|花の井が入ってきました。
花の井!一世一代の頼みとは何だ!
長谷川様、実はこのような話が持ち上がってまして…
花の井は、まず文を出して長谷川平蔵を松葉屋に呼び、女郎の絵姿を集めた入銀本を作る話が持ち上がっていると切り出しました。
入銀本とは人々から金を募って作る本で、入れた金額に応じて女郎の掲載順が決まるのです。
なんとしてもわっちが冒頭を飾りたいの…
花の井は瞳を潤ませ平蔵に訴えます。
わっちの好かない女郎がもう三十両も入れなんして
三十両…!!!
なに、三十両のはした金、ここで見捨てては男が廃る、と言われるまま平蔵は五十両を用意し、蔦重はその金を、二文字屋を救うためにきくに渡したのでした。
ご、五十両?!
五十…五十…!!!
きくは腰を抜かさんばかりの驚き様です。
蔦重は、さらにそのでっち上げ企画を女郎たちに話して回ったのでした。
手始めは玉屋の志津山、噂と悪口を吹聴して回るのが趣味の花魁です。
「ちなみにもう誰か銀しんしたかえ?」
まぁ、花の井花魁は金を早々に入れて、本の頭を決めましたか
「どうなんしょう。花の井のような床下手が頭って」
お次は気位の高い桐びし星の重菊、四つ目星では無口な勝山、魔性の女郎・角か那屋の常磐木、扇屋の陽気な慰野、角たま屋は美声の玉帳……あの手この手で花魁たちを丸め込みます。
こうして蔦重はかなりの入銀を確保し、そのうえで親父たちに話を持ちかけたのでありました。
実は長谷川様から配り物の絵本を作ってほしいと頼まれまして
蔦重は廊下に正座し、ガチガチになって説明を始めました。
ちょうどお役が決まったそうで。
『珍しい吉原本でございます』と挨拶がわりにお渡ししたいとのことで
カツーン!
蓋置の上に柄杓をのせる音が大きく響き、蔦重は震え上がります。
今にも熱湯をかけられそうで、駿河屋のお点前のいちいちが恐ろしい。
長谷川様からそんな話、聞いてねぇけどな
あ、花魁と内々に話されたようで
駿河屋としては面白くないだろうが、蔦重は気づかぬふりで話を続けました。
そこでほかの女郎衆にも試しに話を持っていったところ、
皆、乗り気で。
このように金も集まっておりまして、
どうかこのまま進めさせていただけぬかと
満を持して入銀の目録を見せます。
真っ先に反応したのは、やはりカボチャの大文字屋です。
こ、こんなにあつまってんのか!
じゃこれ、俺らは一文も出さなくていいってことか?
親父たちは、自分たちが金を出さずとも吉原の宣伝になる本が出来ると知って喜びます。
あんた、本作るの向いてんじゃないかい?
ところがまたも駿河屋は激怒し、蔦重を茶会の席から引きずり出したのでした。
こんなもん、鱗形屋に頼め!!
…し、しかし長谷川様は私にと…!!
何カッカきてんだよ
重三は別に茶屋をなまけているわけじゃぁねぇだろ
扇屋がかばってくれますが、怒り心頭の駿河屋は無言で蔦重を睨みつけています。
なまけてるったらこいつだよなぁ
大文字屋が指さしたのは、する駿河屋の息子の次郎兵衛です。
そこだけは言うてもおくれな小夜嵐
駿河屋の怒りはさらに悪化します。
親父様、なんで!なんでそんなに頑なに!
皆さまもいいって言って下さってるわけですし!
吉原にとっても決して悪いことにはなりませんし!
必死に訴えるが、駿河屋はまるで聞く耳を持たず階段に向かいます。
俺の話もちいとは聞いてくだせえよ!
思い余って身を翻したのがまずかったのです。
虚をつかれた駿河屋は体勢を崩し、そのまま階下へゴロンゴロンゴロン………。
主人が転がり落ちてきたので、店の者たちは大騒ぎです。
蔦重が階段の上から呆然と見ていると、店を揺るがすような駿河屋の怒声が響き渡りました。
うぅぅ!出てけ、出てけ~!!!
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:本の希少価値を上げる
追い出された蔦重は唐丸とともに、二文字屋の空き部屋に置いてもらうことになりました。
うぅ…仕方ねぇ…
河岸はあんたの味方だからね
手伝えることがあったらなんでも言ってくれ
きくは蔦重に感謝していました。
あのお金でしばらく女郎たちに炊き出しをしてやれるのです。
蔦重としては、なんとしても入銀本で吉原に客を呼びたい、と思っていました。
唐丸、どうせ作るんなら客を呼べるような本にできねぇかと考えててよ
え、けどこの本って、お金出したお客さんに配るだけのもんだよね
それで客呼ぶって…
いっそ、本屋にならばねぇ事を逆手にとれねぇかなって
つまりさ、その本が欲しい、手に入れてぇと思っても本屋じゃ買えない
手に入れる方法はただ一つ、吉原の馴染みになること。
そうなりゃ、この本貰いたさに「吉原行くぞ」ってなんねぇかなって
贈答用の本なので販売はされないが、魅力的な本が出来れば、それを手に入れるために吉原へ行こうと、男たちに思わせることができるはずなのです。
唐丸は蔦重の発送に心底驚きます。
けど、そうなるためには、みんなが欲しがるような
本にしねぇとだめなんだよ
果たして俺にそんなもんが作れっかって話なんだけど…
そこはまぁやってみるしかねぇな
できるよ、蔦重ならできる
おいらそんな気がするよ
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:女郎を花に見立てて
入念に絵師を選んだ蔦重は、北尾重政という絵師に、入銀をした百二十人の女たちを描くよう依頼するのです。
またどうして私に女郎の絵本を?
へぇ、北尾 重政先生なら女郎の書き分けができると思って
蔦重が白羽の矢を立てたのは、人気浮世絵師の松尾動政。
独自の画風で描く美人画や役者絵は広く庶民に愛されており、板本(板木に彫って印刷した本)の挿し絵を得意としていました。
へぇ、北尾重政先生なら、女郎の描き分けができるんじゃねぇかと思ったんです。
実は、のりてえって女郎が百二十ほどになっちまいまして
ひや、百二十?
ちと入銀が集まりすぎちまいまして。
こんな数の女郎を描き分けできんのは、とにかく絵が確かだって評判の北尾先生しかいねぇかなって
ま見込んでくれたのは嬉しいけどたどうして私に女郎の絵本を?
礼は弾みますんで!なんとかお願いできませんかねぇ
いや礼の話じゃなく、ええと、これ墨摺で?
それで人を描くとね…
と積み上げてある本の中から墨摺の絵本を見せます。
一枚絵ならまだしも、本にすると似たような絵が延々続くだけになるよ。
あんまし面白くないんじゃないかなぁ
そっか……ああ~じゃ、なんならいいですかね、
どんな本なら欲しいって思ってもらえますかね。
俺あこの本を見たみんなに欲しいって思ってもらいてぇんですよ!
せっぱ詰まった蔦重の様子を怪訝に思いながらも、重政はちょっと考得ています。
……見立てる、とか?
と案を出したのです。
たとえば、動物とか。キャンキャンうるさい女郎は小さい犬とかね
なるほど!見立てることで女郎の性分も表しちまうわけですね!
蔦重はふと、床の間に飾られている投げ入れ花に目を留めました。
…先生。花に見立てるってなあどうです?
投げ入れ花になってる形で。近頃流行ってるって言いますし!
どうですかね!
ツーンとしてる女郎は、ワサビの花とか
蔦重の提案を面白く思ったらしく、重政はすぐさま乗ってきました。
夜冴えないのは昼顔とか!
無口なのはクチナシな!
文ばかり書くカキツバタ!
二人の口からどんどん案が出てきます。
話がまとまり、吉原を知り尽くす蔦重がどの女郎がなんの花かを考え、重政が絵を描くこととなりました。
こうして、蔦重初めての本作りが始まったのであります。
彫師が重政の下絵を貼り付けた板木を彫っていきます。
次に招師が板木に墨を染み込ませ、その上に紙をのせて丸いバレンでこする。
するとあら不思議、紙に重政の絵がー。
おおお!おおおお!
摺り上がった絵を見た蔦重は、疲れも眠気も吹っ飛んで歓喜の声をあげました。
しかし、本の形になるまでの作業はまだまだ続きます。
唐丸と二人では間に合いそうになく、二文字屋のきくと女郎たちの手を借りることにしました。
炊き出しのおかげで元気になったちどりや、ほかの女郎たちも手伝ってくれます。
折り台で折ったり、頁を整えたり、糊付けをしたり……。
夜を徹しての作業の末、蔦重はようやく最後の本を綴じ終えました。
できた……できた!
蔦重の手の中には、念願の本吉原から世に出る史上初の本となる『ご目千本』がありました。
皆が歓声をあげて寄ってきます。
すごい!いいのできたねぇ、蔦重
なんだかめっぽう粋じゃないかい?ねぇ!
唐丸やきくが襲めてくれます。
蔦重も満更でなく、「へへ、ねえ」と改めて本を見つめました。
奥付には『書肆蔦屋重三郎』の文字。
書肆とは本屋のこと。貸本屋でも、改でもない。
胸いっぱいになって動けずにいると、唐丸が「どうしたの、蔦重?」と聞いてきました。
なんか、俺、すげぇ楽しかったなって。
やる事は山のようにあって、寝る間もねぇくらいだったけど。
てえ変なのに楽しいだけって。
そんな楽しいこと世の中にあったんだって…。
俺の人生にあったんだって…。。
なんかもう、夢ん中にいるみてえだ
目の下には黒いくまができていたけれど、その瞳はキラキラと輝いています。
この日、吉原に稀代の本屋・蔦屋重三郎が誕生しました。
安永三(一七七四)年七月のことでした。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:サンプルプロモーション
河屋の親父が店先にいます。
蔦重は遠目から確認し、よし、と覚悟を決めて近づいていきました。
親父様。あの、これ俺の作った人銀本です。
駿河屋に置いてくださいませんか
背を向けている駿河屋に、上下巻を紙できれいにくるんだ『一目千本』を差し出します。
いらねぇよ。入銀もしてねぇし
そんなこと言わねぇで。
ほら!客の手持ち無沙汰にもよろしいでしょうし
駿河屋は知らん顔で店の中へ入っていきます。
まあ、そうやすやすと許しちゃあもらえまい。
気が向いたら見てくださいね!
声をかけて外の縁台の上に本を置き、荷物を背負い直すと駿河屋をあとにしました。
次に蔦重がやってきたのは松葉屋です。
「一日千本」を十組ほど置き
こちらは入銀くださった皆様にお渡しくだせえ。
それから、こちらは新しく馴染みになった方などに渡してください
とさらに十組。
女将のいねが
ん?新しく馴染みってどういうことだい?
と首を傾げます。
新しい客づけに使ってくださいってことです
蔦重は
よし、唐丸、次行くぞ
とやる気満々で店を出ていきます。
いかにして世間にこの本を広めるか。
蔦重の頭が目まぐるしく回転します。
「これをウチに?」
突然やってきた蔦重に立派な本を渡され、湯屋の主人は面食らいます。
へぇ、差し上げますんで、客の皆さんにお好きにめくっていただければ
男湯の二階では、入浴後の男たちが与太話をしたり、囲碁や将棋を楽しんでいます。
「…こりゃ、すごい。こりゃなんてえか、粋だねぇ!」
湯屋の主人はただただ感嘆しています。
ありがとうございます!で、こりや『見本』なんで」
表紙には「見本」と書いた紙、裏表紙にも自筆の書き付けが貼ってあります。
その内容を今風に言えば
吉原の馴染みになったらもらえるよ!欲しい人は吉原に行こう!
鳥重は、髪結い床、茶店、居酒屋……男たちがたむろしそうな市中のありとあらゆるところに見本を配り、宣伝して回りました。
今で言うところの「サンプルプロモーション」です。
この頃の本屋は、企画、プロデュース、営業、時には創作まで担うこともありました。
そんな中で、蔦重は次々と新しい発想を繰り出していったのでした。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:駿河屋の思い
駿河屋が店の外に出ると、扇屋が縁台にあった「一目千本』を開いていました。
どうぞいるんなら持ってってくだせぇ
まだ続けんのかよ。こんなくだらねぇ喧嘩。
片手間に本作るくらい、いいじゃねえか
じゃあ息子が今日から八百屋もやりますってったら許しますかい?
駿河屋は無然としています。
これじゃあまるで本物の父親ではありませんか。
…重三だけよそに出さなかったのは
駿河屋を継がせる心づもりだからか
駿河屋の顔が強張ります。
答えを聞くまでもありませんでした。
…ま、滅多にいねぇもんなぁ、あんなの。
目端が利いて、知恵が回って、度胸もある。
何より、てめえがなんとかしなきゃってあの心根。
誰だって手放したくねぇよなぁ。
どうすんだい。このまま重三が戻らなかったら
そもそも親でも子でもねぇんだ。吉原から追い出すだけでさね
頑として突っぱねる。
が、江戸っ子の意地っ張りばかりでもないようです。
それが『らしくねぇ』と思うんだよなぁ。
可愛さ余って憎さ百倍なんて、お前さん、
まるで人みてぇなこと言ってるよ。忘八のくせに
痛いところを突かれたようで、駿河屋は黙り込みます。
うまい話じゃねぇか。細見もコレもタダで走り回ってんだろ。
そんな奴追い出すなんざ、どう弾いたって算盤が合わねぇ。
忘なら忘八らしく、一つ損得づくで頼むわ。
とにかく、店には置いたほうがいいと思うぜ、これ。
おもしれえから
本を置いて扇屋が去ると、駿河屋は縁台に腰掛け、周囲に誰もいないのを確認してから、おもむろに本を手に取りました。
一日千本、花すまひ?
書名の意味は、一見でたくさんの花を見ることができるという意味です。
しかし、すまひ(相撲)とは……。
最初の真には土が描かれていて、土脇に置かれた大きな木桶にさまざまな花々が挿してあります。
どうやら花が相撲をとるようです。
興味をそそられて本を繰ると、取り組み形式で投げ入れ花が描いてあり、それぞれに花の名前と女郎たちの名前が添えてありました。
…菊はワサビか。ツンツンしてやがるもんなぁ
駿河屋はクスリと笑いました。
取り組み相手は「葛」の花、女郎は噂好きの志津山です。
志津山はクズって
と思わず噴き出します。
すると、隣で笑い声がしました。
いつの間に来たのか、妻のふじがもう一冊の本を開いていました。
見てごらんよとばかりに駿河屋にそれを差し出します。
…常磐木がトリカブト。食らうと死ぬってか!
腹上死した男は数知れぬ、魔性の女郎。
ちげえねえ!
駿河屋は大笑いしました。
…まあ、よくこんだけ見立てたもんだよねぇ。
誰よりもこの町を見てんだね、あの子は
駿河屋の扱いは、やはり扇屋より古女房のほうが上手のようでした。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:認められた!
思いつくかぎりのことはやった。
こっからはもう、神頼みしかねぇからな
蔦重と唐丸が九郎助稲荷に「一目千本』を供えて手を合わせていると、蕎麦屋の半次郎が「蔦重!」と息せききって走ってきました。
半次郎の話を聞いた蔦重と唐丸が弾かれたように駆けだします。
仲の町に出た二人は、目の前の光景にあんぐりと口を開けた。
…いつぷりだでしょうか…
大通りが大勢の人で溢れ返っている!
「馴染みんなるって、どの店でもいいのかねぇ」
「安い店なら俺たちでも行けつかな。ちょいと聞いてみっか」
初めてなのだろう、ソワソワと緊張している三人組の若い男たち。
「やっぱりヒマワリの女郎が気になるよ」
「俺あ、クチナシのが見てえさね」
書き留めた紙片を手に、楽しそうに歩いてくる二人連れ。
みんなみんな、『一日千本』を見て吉原にやってきた客たちです。
…なんかいつもの道じゃないみたいだね
唐丸の声は襲えています。
大門の外の五十間道の茶屋も大賑わいです。
…やったね。…やったね!蔦重!
叫びながら唐丸がぴょんぴょん跳ねます。
これで吉原は救われます!
女郎たちが飢えずに済む。
蔦重は男泣きの涙を拭いました。
おー!やったぞー!
やった、ちくしょうめ、やったーーー!!
両拳を天に突き上げた時、後頭部にパーンと衝撃が走りました。
振り返ると、駿河屋の親父様です。
わめいてんじゃねぇよ、べらぼうが。
さつさと戻れ。回ってねぇだろ、義兄さんがよ
蔦屋の店先では、次郎兵衛が押し寄せる客からぶうぶう文句を言われています。
よ、良いのですか?
駿河屋は懐から「一目千本』を出します。
志津山のクズ、最高だった。
ま、せいぜい吉原んために気張ってくれ
ニコリともせずそう言うと、さっさと踵を返しました。
認めてくれた。親父様が俺を、俺の作った初めての本を!
蔦重は大門を入っていくその背に一礼し
よし!戻るぞ唐丸
と張りきって駆けだしました。
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:ありがとう平蔵
文が来てさ、親の遺した貯え食いつぶしたから
もう来られないって
蔦重は切ない話を聞きます。
いつか返さなきゃな…五十両…
さすがに罪悪感を感じる蔦重でしたが、花の井は言います。
でも、本当のこと知ったら、案外返すなっていうかもよ?
五十両で吉原の河岸を救った男なんて、
粋の極みじゃないかい?
確かに、そりゃ大通だ!
べらぼう3話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:きっと喜んでくれている
活気を取り戻した女郎たちの姿を見ていると、朝顔のことが頭に浮かびます。
なぁ、朝顔姐さん…
きっと喜んでくれてるよね
同じ思いの花の井の言葉に、蔦重は笑顔でうなずきます。
ようやく明るい光が差し始めた吉原。
けれどその裏側で暗い情念がのそり、のそりと動きだしていたことを、蔦重は気づかずにいたのでした。
べらぼうネ次回放送
次回のべらぼうネタバレ第4話はこちら
【べらぼう4話】ネタバレとあらすじを吹き出しで解説!1月26日放送(2025年大河)
べらぼうのネタバレとあらすじ:一覧
2025年1月
【べらぼう 1月】あらすじ一覧
第1話 1/5(日) ありがた山の寒がらす
第2話 1/12(日) 吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』
第3話 1/19(日) 千客万来『一目千本』
第4話 1/26(日) 『雛(ひな)形若菜』の甘い罠
2025年2月
【べらぼう 2月】あらすじ一覧
第5話 2/2(日) 蔦に唐丸因果の蔓
第6話 2/9(日) 鱗剥がれた「節用集」
第7話 2/16(日)好機到来「籠の花」
第8話 2/23(日) 逆襲の「金々先生」
べらぼう3話:筆者の見解
駿河屋の親父さん、めっちゃくちゃ怒ってましたね~!
しかし、どんなに怒られようと、めげない蔦重の熱い想いが素敵でしたね!
親父さんの期限より、吉原の繁盛の方が大事だ!
蔦重はそう言って女郎を花に見立てて本の作成に邁進します。
まさに千客万来『一目千本』!
…なんか…疲れたけど……
すっげー楽しい…!!!
まさに蔦重が、この世での自分の指名に気づいて活き活きとかがやく瞬間がとても良かったです!
大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 蔦屋重三郎とその時代 (TJMOOK) [ 鈴木 俊幸 ]↓↓↓