2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」の第9話(3月2日放送)ネタバレ&あらすじを読みやすい吹き出し形式で記載します!
うぅ…
瀬川ぁ~。。。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:蔦重の危惧
地本問屋たちが引き揚げたあと、吉原の親父たちは接待用に用意していた酒で酒盛りを始めました。
「終いまで気取った野郎だったな!赤子面!」
丁子屋は思い出すのも胸糞悪そうです。
両者は階段の上と下で睨み合っていたが、赤子面こと鶴屋はいつもの取り澄ました表情に戻り
「分かりました。では今後、私たち市中の地本問屋はいっさい吉原に関わらぬということで。
お手間を取らせて申し訳ございませんでした」
馬鹿丁寧に頭を下げると、「では、失礼しましょうか」と地本問屋たちを促して帰っていったのでした。
その無礼な態度がまぁ、親父たちをイラつかせたのなんの。
そもそも赤子が吉原に来んなってんだよ!
そう!吉原は吉原でやりゃいいんだよ!
吉原をコケにされ、大文字屋も大黒屋のりつも頭から湯気を立てんばかりの怒りようです。
それは蔦重とて同じだが、本来、蔦重が地本問屋に加われるかどうかの話だったはずです。
あの、けど、それじゃ、俺が細見作ろうが何作ろうが、
市中ではもう売り広めてもらえねえってことになるんでさね
吉原で売ればいいじゃねぇか
と扇屋。
でも、それじゃ来た客にしか売れねぇですよね
これだけ来てりや、なんとかなんだろ
と松葉屋。
もはや蔦重のことなど念頭から酒え去り、親父たちは地本問屋の悪口で盛り上がっています。
今は玉菊燈籠に瀬川見たさが重なって人が来てますけど、
これが常とはいきませんし
反応がないので、さらに声を張ります。
俺、もっぺん話し合ってきてもいいですか!
ダメだ!ダメだダメだダメだ、何言ってんだテメェ!
お前あんなこと言われてよくそんなこと思えんな!
間髪をいれず雨あられと非難が飛んできます。
けど、市中と手え切ってやってけるわけねぇと思いますよ!
すると、駿河屋が蔦重をギロリと睨みつけて言いました。
そこをやってけるようにすんのがテメェの仕事じゃねぇのか。
え、耕書堂
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:嫉妬?
引手茶屋の軒先に各々趣向を凝らした燈籠が下がり、吉原は幻想的な雰囲気に包まれています。
うつせみ花魁、自分で花買ったんですか。
…とうとう
夕暮れの仲の町。
蔦重は新之助と松葉屋に向かっていました。
玉菊燈籠は、玉菊という女郎の死を悼んで始まった行事です。
気立てが良く、客はもちろん吉原の人々から好かれていたという玉菊が、心根の優しいうつせみと重なりました。
己の甲斐性のなさが、つくづく情けない
間夫がいなけりゃ女郎は地獄ですから。
そんなにすまなく思うことでもねぇですよ
駿河屋の前を通りかかった時、店の中にいる盲人の客に二人の目が吸い寄せられました。
ずいぶんと風情のいい検校だな
いい男ぶりでさね。誰ん客だろ
立ち止まって見ていると、呼ばれてきたのは瀬川とその一行です。
お待たせいたしんした
遅かりし由良助
どうやら生害には間に合いんしたようで
知的な冗談を言い合い、親しげに笑い合っています。
なんだかいつもとは雰囲気が違うようなー
ふと瀬川の視線が蔦重に向けられ、なぜかドキリとします。
が、瀬川のほうはまるで蔦重などいなかったかのように、フィッと目を逸らしてしまいました。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:うつせみの刺青
あの二人が恋仲…?
うつせみの部屋でくつろぎながら、自分にはそう見えたと新之助が話します。
さっきの蔦重は、瀬川と客の検校がやけに気になっているふうでした。
吉原の内で間夫を作ることは禁じられておりんすし
あまりにも今さら…
やせたな…
床着になったうつせみを見て、新之助は眉を無らせます。
…新様はそれがお嫌で?
うつせみが急に肩を震わせます。
…わっちが痩せたのがお嫌で?
それともお飽きなりんした?それともよそに良いお人が?
いつも控えめなうつせみの口から、次々と不安がほとばしります。
うつせみを落ち着かせようと、新之助はその華奢な両肩を強く抱きました。
それは違う。私はそなたを一晩丸ごとなど揚げられぬではないか。
ゆえにそなたが来るまで待つことになる。
その間、そなたが今、誰とおるのだろうとよけいなことばかり考えてしまってな
「廻し」と言って、女郎は一晩に複数の客を取ります。
うつせみを愛すれば愛するほど、ひとり部屋で待つ時間が生き地獄となっていくのです。
…まこと情けない
新之助はくつと顔を伏せました。
わっちなぞをそこまで思ってくださるなど
嬉しそうに涙ぐむ姿がただただ愛おしく、新之助はそのままうつせみを押し倒しました。
新様。お待ちを!
今、灯りを!
うつせみが灯りに手を伸ばした拍子に、緋縮緬の湯文字(腹巻)の裾がはだけました。
…なんだ、これは!
露わになった脚をうつせみが慌てて隠します。
新之助が力ずくで確かめると、そこには「長十郎様命」と生々しく刺青が彫られていたのです。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:瀬川と検校
一方、瀬川の座敷では
こちらお手許にござりんす。
これからは我が家のごとくお寛ぎくださんし
馴染みになった客には名前入りの箸袋が用意され、夫婦のように振る舞うことが許されます。
花魁、何か心がかりでもあるのか?
声音が少ししおれておる
目が見えぬというのに、検校にはちょっとした心の機徴も見透かされてしまいます。
蔦重に爪の垢を願じて飲ませたいくらいです。
申し訳ごさんりんせん。
少し面白うないことを思い出しまして
…そうか。
では、一つ面白いものをお目にかけよう
いったい何が始まるのかと思いきゃー。
どうじゃ花魁!わしの目隠し鬼は!
検校は人並み外れた鋭い勘で、新造や禿たちを次々と捕まえてしまいます。
この世のものとは思えんせん!
当代一、当代一にござりんす!
瀬川は気鬱も忘れ、やんやと喝采を送りました。
鳥山様はまこと稀に見る良い男であられんすなぁ
その言葉に裏はないかい?
次の座敷に向かいながらいねに話すと、いねは妙なことを聞いてきます。
むろん裏などない。
じゃあ教えてやるかね
するといねは満更でもないふうに言いました。
実は鳥山様から身請けの話を持ちかけられてるんだけどさ。
花魁にその気はあるかい?
驚きはしたが、嫌ではありませんでした。
あの人ならば信頼できるし、断る理由は見当たりません。
それに蔦重も、「お前には幸せになってほしい」と本を渡してきたではないですか……。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:蔦重の混乱
吉原を常に賑わっている場所にすればいい。
次郎兵衛の助言もあって、蔦重は人出の増減を確認するため、吉原の一年の催事を書き出してみることにしました。
しかし、ふとした拍子に瀬川と検校の仲陸まじげな様子が脳裏にちらつき、どうしたわけかイライラしてしまう蔦重なのでした。
…いつものことじゃねぇか
頭から追い出すと徹夜で作業に没頭し、翌日、蔦重は帖面を持って駿河屋の二階にやってきました。
「ええええええええ!」
戦不足の頭に親父たちの絶叫が響きます。
座敷を現くと、投扇興の会をやっているようです。
…あの、何かあったんですか?
近くにいた駿河屋に聞いてみます。
瀬川の身請けが決まりそうなんだってよ
眠気が一気に吹き飛びます。
相手は鳥山検校。昨日見た、あの男ぶりのいい検校です!
今日はいねも来ていて、皆から質問を浴びせられています。
検校は江戸でも指折りの大金持ち。
「身代金」は千両(現在の金額で一億を超える)と聞いて、大文字屋たちは大興奮です。
ちくしょう。んな豪儀な話どれだけぶりだよ!
もう一声、吹っかけられそうだけどね。
とにかくもう向こうさん、瀬川にベタ惚れでさ
でも、検校でいいのか?
身請け先は、できればお大名や豪商といきたいとこだろ
と扇屋。
俺たちも初め引っかかったんだけどねぇ
松葉屋夫婦も悩んだらしい。
しかしこの先、大名や豪商から引き合いがくるかどうか分からないし、いつまでも売れ残ったら「瀬川」の格を落とすことにもなります。
正直、台所も楽ではないのです。
当の瀬川はどうなんだい?
それが乗り気なんだよ
りつに聞かれたいねは、嬉しそうに言いました。
裏を返せば、検校だってこたぁ気になんないくらい、
男としていいってことさ
鳥重は意識まで飛びそうになりました。
まさか、本気で検校に惚れたとか・・・・・・?
重三郎、なんだ?
帖面を持ったまま呆然としている蔦重に、駿河屋が訝しそうな目を向けてきます。
…あ!あ、ちょいと相談があったんですが、出直してきまさ
うろたえて帰っていく蔦重を、駿河屋は思案顔になって見つめていたのでした。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:身請けの身代金
混乱したまま蔦屋に戻ってくると、次郎兵衛が調子っぱずれの歌を歌っていました。
蔦重が出かけている間に来たらしく、新之助が無理やりそれに付き合わされています。
…おお!蔦重!
新之助は助かったとばかりに喜色を浮かべます。
身請けについて聞きたいことがあって来たと言います。
幸い次郎兵衛は自分の歌に酔いしれています。
二人は気づかれないように、そっと店を出ました。
三百両…
へえ。うつせみ花魁だと、そのくれえの身代金は求められるかと。
けど、なんでまた急に
私を呼ぶ花代を稼ぐために、おかしな客をとっておったのだ。
うつせみに自らの名を彫り、痛がる様子を楽しむらしい
怒りを押し殺しているようで、新之助の握った拳が白くなっています。
それをすれば花代を弾んでくれるそうで、うつせみはもう傷だらけでな。
もういっそつとめをやめさせてやれぬかと思ったのだが…。
金のない男が身請けなど夢のまた夢なのだな
……花魁は断れんですけどね
蔦重は独り言のように言い、小首を傾げた新之助に慌てて説明します。
あ、花魁は気の進まねぇ身請けは断れるんです。
なんで、うつせみ花魁がどんな身請け話が来ようが断って
新さんが金を作るの待ち続ける。
年季が明けりや身代金も安くなるんで、
そこまで待って一緒になるってぇのは、ねぇ話ではねぇと思いますよ。
理屈のうえではですけど
理屈のうえとは
なんだかんだ言っても、身請けを断る花魁なんて、
まずいねぇってこってす。
一日も早くつとめを終えたいのも本音でしょうし
…つまるところ、花魁にとって金のない男の懸想など
幸せになる邪魔立てでしかないのかもしれぬな
新之助が消沈して最天を見上げます。
そうなんでしょうねぇ…
蔦重も灰色の空を見上げ呟きます。
蔦重も分かってはいるのです。
金持ちの検校に身請けされるのが、瀬川の幸せだと…。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:初めてもらったもの
ここでの物はすっぱりさっぱり捨てていく。
瀬川は少しずつ部屋の整理を始めました。
「こりゃまだとっとくのでありんすか?」
あやめが手に持っているのは、ボロボロの赤本『塩売文太物語』です。
わっちが初めて男からもらった贈り物でござんしてなあ…
そう言って、大切そうにそれを受け取ります。
これだけは捨てられそうにない……
こつん。
窓に小石の当たる音がしました。
窓障子を開けると、蔦重が笑顔で見上げています。
ちょいと、いいか?
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:行かねぇでくれ
あとを禿たちに任せ、瀬川は蔦重と九郎助稲荷にやってきました。
ま、ちょいと座って座って
蔦重はやけに愛想が良いのです。
気味悪いんだけど
と眉をひそめつつ、瀬川も石段に腰を下ろします。
蔦重はしばらく口ごもっていたが、やがて思いきったように切りだしました。
あのよ!身請け決まったって聞いたんだけどよ。
その身請け断ったりってなぁ、ありやなしや
……は?
いや、いや実は市中の本屋と揉めちまって。
細見も吉原だけで捌かなきゃいけなくなっちまってよ。
今お前がいなくなって人に引かれっと
なんとまぁ手前勝手な……!
瀬川は冷ややかに言います。
このあいだは身請けされて幸せになれって言いんしたかと
言った!
言ったけどお前、こんなに早いたあ思わねぇし
瀬川の口からため息が溺れます。
その「ため息」に蔦重は焦ったらしい様子です。
それに何も検校で手え打つこたないんじゃね?
どえれぇ金持ちなのは分かるけどさ
鳥山様は素敵な方でござんすよ。
男ぶりもいいし、品もいいし、何よりお優しいし
そうは言っても目え見えねえんだぞ。
お前にそんなお人の世話なんて
禿から女郎屋で育った女郎は、世間のことを知らないし家事もまったくできません。
お側役がおられんす。
それにまるで見えているかのように動かれるのでありんすよ。
顔も見えぬのに人の機微も察せられんす。
それこそ目明きの男の倍も百倍も!
瀬川にピシャリと撥ねつけられ、蔦重はフラれた間男みたいな情けない顔になりました。
…お前、それ惚れてるってこと?
かもしれんせん。
じゃあ
さっさと立ち上がって去っていく。蔦重は慌ててあとを追います。
お、お前、江戸中の笑いモンになんぜ!
お前にどんだけいい顔してんのか知んねえけど、
あいつらクズ中のクズよ!
お上の情けをいいことに、葬式にまで押し掛けてむしり取る。
その金貸して大儲けしてる、この世のヒルみてえな連中よ!
思いつくかぎりの罵詈雑言を並べ立てます。
すると、瀬川が足を止めて振り返ります。
あんただってわっちに吸い付くヒルじゃないか!
河岸のために五十両取ってこい!
今だって客呼ぶために身請けを蹴れって言う!
わっちに客とり続けろって言う!
同じヒルなら、よそ様に吸い付いてくれるほうがまだ愛らしいってもんさ!
蔦重は急に黙り込んでしまいました。
何を考えているのか、瀬川が表情を読めずにいると
行かねぇで!
叫ぶなり、蔦重はガバッとその場に土下座したのです。
頼んます。後生だから、行かねぇで
しかも涙声です。
うっかりうなずきそうになりましたが、瀬川はグッと自分を抑え
好かないね。
しまいにゃ泣き落としって
と冷たくあしらいました。
分かってんのよ。これがいい話だってこたあ。
吉原にとってもお前んとっても…
けど、俺は、お前があいつんとこに行くのがやなの
瀬川の心臓が跳ねたー。
今、重三はなんて言った?
俺がお前を幸せにしてえの……。
だから、行かねぇでください
頭を下げたまま、今にもしゃくり上げそうな震え声で哀願します。
二人のこれまでの年月と同じくらいに長い……長い沈黙が流れました。
…どうやってさ
瀬川の声も震えていました。
蔦重がハッとして顔を上げます。
どうやって幸せにしてくれるって言うのさ
瀬川は潤んだ目で恋しい男を睨みつけました。
まっすぐで、どこか抜けている憎めない男。
ずっとずっと胸の奥に秘めてきた思いを、もう隠すことができません。
そ、そりゃあ、どうにか
どうにかってなんなんだよ!べらぼうが!
「こらえきれなくなった涙が瀬川の双眸から溢れ出ます。
ね、年季明けには請け出す!必ず!
心変わりなんかしないだろうね!
泣きながら問い詰めると、蔦重は小さくため息をつきました。
……あのよ、俺ゃてめえの気持ちに気づくまで二十年かかってんのよ。
五年やそこらで心変わりなんて、んな、器用なこと…。
そりゃ無茶ってもんよ
瀬川は「そっか」と妙に納得し、拍子抜けしたせいで涙も少し引っ込みました。
恋の成就にしては色気のない会話だけれど、最後はやっぱり二人らしく笑ってしまったのでした。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:いねの鋭い目
瀬川の突然の翻意は、有頂天になっていた松葉屋といねにとって裏切りにも等しいものでした。
確か、花魁は相手の身分、身代金の額によらず、
気の進まぬ身請けを断ることができる定めであったはず
そりゃあ、建前はそうだけど…
松葉屋は弱りきっているが、いねはカンカンです。
あんた、こないだは受けるようなこと言ってたじゃないか!
縁起棚に飾ってあった身請け証文をつかみ、瀬川の前に突き出します。
もうここまで話は進んでんだよ、今さらなんてって断るんだよ!
では、わっちから直に鳥山様にお断りしんす
…花魁。わけを聞かせてもらえるかい?
いねのこめかみに立った青筋を横目に見つつ、女房よりは冷静な松葉屋が瀬川に聞きます。
お断りしたほうが「瀬川』の値打ちが高まりんすかと。
ここで身請けされては瀬川なぞしょせん金に転ぶもの、となりんしょう。
逆に『千両でも振りつけた』となれば、瀬川はさすが金では転ばぬと。
そのような評判が立つほうが瀬川の値打ちも、
ひいては吉原の花魁の値打ちも高まると気づきんした
次に身請け話があれば、親父様たちももっと吹っかけられんしょう?
分かった。じゃあ、私から断っておくよ
説得しようとする松葉屋を遮って、意外にもいねが言いだしたのです。
……まことでありんすか?
あんたの言うことはもっともだ。よく分かったよ
ありがとうござりんす。ではお頼みいたしんす
瀬川は見るからにホッとして出ていきました。
…いいのかい、あれで
松葉屋がいねに確かめるといねは険しい目つきで断言しました。
ありや、男だよ。間違いない、間夫ができたんだ
…間夫って。今まで一人も作らなかったのに?
だから、作るとしたらアレしかいねぇだろ
今さら!
とにかくアレ相手なら正面切ってのお定め破りだ、
尻尾捕んでバキバキに折檻すりや目も醒めるさ。
まさ!
いねの指示で、その日から遣り手婆による瀬川とアレの監視が始まりました。
しかし、そこは古原育ちの二人、いつもと変わらぬふうを装いながら密かに連絡を取り合い、人目を欺き続けたのでした。
そんななか、駿河屋から瀬川を指名する差し紙が松葉屋に届けられました。
客は検校です。
申し訳ござぁせん。
瀬川はあいにくひどい風邪っぴきざぁして
主人と女将自ら駿河屋に出向き、検校に平謝りします。
もしや、私は瀬川に振られたということか
まさか、どうしてそんな
いねは笑ってごまかそうとしましたが、検校の耳は声に混じる焦りを聞き逃しません。
松葉屋の言い訳も肩じていないふうだったが、あえて追及しません。
これで滋養のあるものでも
瀬川のために金を渡して帰っていったのです。
あのよ、ひょっとしてなんだが、ウチの奴がなんか
駿河屋は、先日の蔦重の様子から勘が働いたらしい。
まま、まだウチん任せとくれ。どうしようもなくなったら頼るからよ
松葉屋はそう言うと、先に店を出た、いねと一緒に歩きだしました。
はぁ、どうすっかねぇ。千両は惜しいけどさ、
今回は見送るってなぁ、やっぱりねぇの?
ないね。あの子は次に誰が来たっておんなじ理屈で断るよ。
はぐらかし続けたあげく、年季が明けたらアレと一緒になる算段さ。
せっかく甦った「瀬川』を
そんなしょぼいもんにされていいのかい?
鬼と言われようが人でなしと言われようが、ここで情けをかけるわけにはいかないのでした。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:絶望
こりゃ、またずいぶんと大勢な…
一晩に五人とは……瀬川は眉を盛らせました。
『瀬川』の襲名披露のご祝儀、いくらかかったか知ってるかい?
瀬川になってからの着物、簪調度品。
あんたが張り込むって言うもんだから、もうとんでもないことになっててさ…。
身請けも断ったことだし、ガンガン稼いでもらわないとね
けど、こんなこと『瀬川』の安売りとなりんせんか?
そこは案じなくていいよ。
瀬川と寝られるなら金に糸目をつけないって、
うちうちに頼まれてた客ばかり。
風邪ひいたことにして離れで客をとる。
これならバレやしないさ
金勘定に厳しいいねだが、これまでこんなことはありませんでした。
瀬川は合点しました。
こうして昼夜を分かたず客をとらせ、瀬川が音を上げるまで追い詰めるつもりなのです。
いねは最初から身請けを断る気などなかったのです。
…女将さんは、もう一度、四代目瀬川を作るおつもりで?
先代の瀬川もこうやって気の進まぬ身請けを呑まされたあげく
自害したのでは?
いねはフンと身で笑いました。
脅しのつもりかい?
悪いけど、私や四代目が可哀想だなんて毛筋ほども思っちゃいないよ。
アレは松葉屋の大名跡を潰してくれた、迷惑千万なバカ女さ
非情に言い捨て、「じゃあ、頼んだよ」と部屋を出ていきます。
瀬川は思わず拳で壁を叩きました。
客の前では花魁花魁と祭り上げても、しょせんは金儲けの道具。
歯を食いしばって怒りを押し殺すしかないのでした。
翌日の昼過ぎ、蔦重は再び松葉屋にやってきました。
午前中に貸本商いで来た時、瀬川の姿が見えないので心配していたら、松葉屋が昼過ぎにもう一度来てほしいと耳打ちしてきたのです。
いねを抜きにして、瀬川と三人で話したいことがあるというのですが……。
案内されたのはなぜか離れで、襖の向こうから男女の喘ぎ声が聞こえてきます。
昼見世で女郎が客をとっているのでしょう。
そこへ、松葉屋が入ってきました。
すまないね、蔦重。
花魁を蔦屋に連れてくわけにもいかないもんで
そう言うと、松葉屋は房事の真っ最中である部屋を見やりました。
花魁はぁ~、ちょいと長引いてるみたいだね
その意味に気づいた瞬間、蔦重の顔からサッと表情が消えました。
気持ちが入っちまうと、聞こえ方が違うか
…なんの話、だか
動揺を隠せない蔦重に、松葉屋は二の矢三の矢を放ちます。
今さら言うことでもないけど、どれだけ飾り立てたって
これが瀬川のつとめよ。
年に二日の休みを除いてほぼ毎日がコレさ。
この先どう考えてるか知らないけど、
お前さんはこれを瀬川に年季明けまでずっとやらせるのかい?
松葉屋が少しだけ襖を開けました。
その隙間から、着物のはだけた女の肩が揺れているのが見えます。
なめらかな、雪のように白い背も……。
蔦重が微動だにできずにいると、視線を感じたのか、ふいに女が顔だけ振り返ります。
蔦重を見た瀬川の目が大きく見開かれます。
それを確認すると、松葉屋は静かに襖を閉じました。
客をとればとるほど命はすり減ってくもんだ。
年季明けの前に逝っちまうなんてこともザラさ。
重三。
今お前にできんのはな、何もしねぇってことだけだ
蔦重は一言も言い返せませんでした。
何もかも、松葉屋の言うとおりだったのです。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:足抜けの方法
重い足取りで蔦屋に戻ると、新之助が長屋の知り合いだという若い娘を連れてきていました。
玉菊燈籠が見たいというのでな。
ひさと言うのだが、切手を願えるか?
玉菊燈籠の期間は一般の女性も吉原に入ることができるのですが、女郎の足抜け(吉原からの脱走)を防ぐため、出入りには引手茶屋や会所が出す通行切手が必要になります。
蔦重は通行切手を手に取り、ふと動きを止めて考え込みます。
大門の手前でひさが踵を返し、新之助が一人で中に入っていったことにも蔦重は気がつきません。
清搔が聞こえ夜見世が始まり、やがて大門が閉まっても、蔦重は通行切手を見つめて考え続けます。
普段ならよぎりもしなかっただろう考えが、頭にとりついて離れないのです。
たとえば最後の客が寝入ったあと、瀬川が屋根づたいに抜け出して蔦重と落ち合う。
人目につかないところで一時身を潜め、変装させて朝一番に大門へ向かう。
会所の番人には、玉菊燈籠で知り合った男女のふりをする。
「裏茶屋にしけ込んでたら、日またいじまって」
などと言い訳して通行切手を提示し、堂々と大門を出ていくー。
頭の中で計画が練り上がった頃には、もう明け方になっていました。
その日も蔦重は松葉屋に貸本商いにやってきました。
顔を合わせるのが気まずいのか、瀬川の姿が見えません。
いつもどおりに振る舞い、松の井と話していると、遠目からこちらを見ている瀬川に気づきました。
一瞬目が合ったあと、瀬川がくるりと背を向けます。
…花魁! 面白え本入ったよ
蔦重は声をかけて瀬川に近づき、用意してきた本を差し出します。
これどうだい?
なんてことのない青本です。
無言でそれを受け取った瀬川は、本を開くなりハッとしました。
ま、読んでみてくだせぇ
本には、足抜けの手順を書いた紙片と通行切手が挟んであったのです。
半ば呆然として蔦重を見つめている瀬川に、本気を伝えようと真剣な目でうなずきます。
その時だ。いねが慌てふためいて部屋に駆け込んできました。
うつせみ!うつせみはいるかい?誰かあの子見なかったかい?
うつせみに何かあったのか、いねは髪を振り乱さんばかりです。
足抜けだ!
蔦重と瀬川は驚いて顔を見合わせました。
蔦重たちより一足早く、うつせみと新之助が手に手を取り合い、大門を潜ったのです。
新之助に頼まれたのだろう、ひさという娘は通行切手を受け取り、大門の中へは入らず帰っていった。その通行切手を、うつせみが使ったに違いない。
しかし、二人が夢見た未来はあっけなく途絶えたのです。
逃げているところを松葉屋の若い衆に捕まり、うつせみは泣き叫びながら担がれていき、新之助はなす術もなく袋叩きにされたのでした。
心配になった蔦重は、新之助の長屋にやってきました。
戸を開けると、新之助が脇差を手に切腹しようとしているではないですか!
な、なにやってんですか!
駆け寄って脇差を取り上げようとするも、新之助は必死に抵抗します。
離せ!離せ!俺はうつせみと共に逝くのだ!
うつせみは死にませんよ!
新之助の手が止まり、呆けたようにぽかんとします。
その隙に蔦重は急いで脇差を奪い取りました。
吉原は女郎を殺したりはしませんよ
死なぬのか
力が抜けたように肩を落とします。
安堵もあったのでしょう。
だが、足抜けに失敗した惨めさや心中すらできぬ情けなさに、新之助は打ちのめされたようでした。
うつせみが逃げたいと言ったわけではないのだ。誘ったのは私でな。
己の不甲斐なさに耐えられなかったのは私のほうだ。
弱かったのは、俺なのだ……
蔦重には、その気持ちが痛いほど分かりました。
一瞬にして夢から覚めてしまうほどの、それは心が悲鳴をあげるような痛みでした。
松葉屋に連れ戻されたうつせみは、庭の木にくくりつけられ、いねにきつい折艦を受けました。
芝居のネタにでもなるつもりかい、しょんべん女郎が。え?
頭から水を浴びせられるうつせみを、これが見せしめだと分かっていても、瀬川やほかの女郎たちは黙って見ているしかありません。
わっちは、ただ、幸せになりたくて
はぁ、幸せ……。
なれるわけないだろ!こんなやり方で!
いねはまなじりを裂き、くったりしたうつせみの髪を引っ張り上げました。
この先どうやって暮らすつもりだったんだい。
追われる身になって、どこ住むんだ。
人別(戸籍)は、食い扶持はどうすんだい、え?
まともな暮らしなんてできないよ。
あいつはあんたを養おうと博打、あんたはあいつを養おうと夜鷹、
成れの果てなんてそんなもんさ。それが幸せか?
いねは容赦なくうつせみに甘くない現実を突きつけます。
いねはまなじりを裂き、くったりしたうつせみの髪を引っ張り上げました。
あ?幸せか?それのどこが幸せかって聞いてんだよ
そんなことは承知のうえだ。うつせみだって、承知のうえで夢見たのです。
幸せを夢見ることすら、苦界の女には許されないのか……。
瀬川は答えが知りたかったのでした。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:覚悟
夕方、内証をのぞくと、いねは忙しそうに夜見世の差し紙をさばいていました。
……女将さん。
四代目瀬川が迷惑千万とは、女郎にとってでありんすか?
あの妓があんな死に方をしなきゃ、きっと何人もの女郎が『瀬川』になって豪儀な身請けを決めて大門を出てったさ。
そりゃここにいる女郎の数少ない幸せになる道さ。
しかも一番大きな堂々とした道さ。
あの子は引き受けときながら、己の色恋大事でぶっ漬しちまったんだよ
それはそのまま、四代目と同じ道を歩もうとしている瀬川に向けての言葉だったのです。
女郎たちは「瀬川になる道』をなくしたし、松葉屋は「瀬川の身代金』をなくした。
この二十年近くは楽じゃなかったさ。
だからあんたが「瀬川』を甦らせたい、幸運の名跡にするって言った時は嬉しかったよ。
これでみんな救われるって、やっと『瀬川』を背負える器が出たとも思ったしね
いねは差し紙から顔を上げ、瀬川を射るように見ました。
あの時、あんたの心にあったのは間夫と添い遂げることかい?
瀬川は息を呑みました。
違う、そうではない。
蔦重のためでもあったけれど、心から吉原の、苦界に沈んだ女たちのためによかれと。
ここは不幸なとこさ。
けど、人生をガラリと変えることが起こらないわけじゃない。
そういう背中を女郎に見せる務めが「瀬川』にはあるんじゃないかい?
声を失っている瀬川に、昔は花魁だったいねはかすかな憐憫を滲ませて言いました。
『瀬川』を背負うってのは、そういうことだと思うけどね
それが女郎の生き方を貫く「張り」、苦界の女が唯一誇れるものー。
瀬川は答えが知りたかったのではなく、ただ覚悟が欲しかったのかもしれなかったのです。
べらぼう9話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:忘れないよ
翌日、蔦重が松葉屋にやってくると、瀬川が近づいてきて先日の青本を返してきました。
……この本…バカらしゅうありんした。
この話の女郎も間夫も馬鹿さ。
手に手をとって足抜けなんて上手くいくはずない。
この筋じゃ誰も幸せになんかなれない
驚きはしなかった。そんな気がしていました。
きっと瀬川も夢から覚めたのでしょう。
……悪かったな、花魁。
つまんねぇ話すすめちまって
蔦重は自嘲の笑みを浮かべながら本を受け取りました。
自分が不甲斐なくて、瀬川の顔をまともに見られません。
何言ってんだい。
馬鹿らしくて面白かったって言ってんだよ
エッと目を上げると、瀬川は優しく微笑んでいました。
この馬鹿らしい話を重三がすすめてくれたこと、
わっちはきっと一生忘れないよ。
とびきりの思い出になったさ
束の間でも二人で幸せを夢見たことは、決して無駄ではなかったと思いたい瀬川は心からの笑顔で言います。
じゃあ、返したよ
そして去っていきました。
蔦重が戻された本を開くと、そこには夢の残骸のように、半分だけの通行切手が残されていました。
ほどなくして、瀬川の身請けが正式に決まりました。
江戸じゅうの話題をさらった見受けの身代金は千四百両、出ていくのはその年の暮れ。
そしてもう一人、年の暮れに住みなれた場所を離れねばならない者がいました。
【悲劇5選】花の井(五代目瀬川)べらぼうの花魁の人生が衝撃!役は小芝風花(大河ドラマ2025)
べらぼう次回放送
次回のべらぼうネタバレ第10話はこちら
【べらぼう10話】ネタバレとあらすじを吹き出しで解説!3月9日放送(2025年大河)
べらぼうのネタバレとあらすじ:一覧
2025年3月
【べらぼう 3月】あらすじ一覧
第9話 3/2(日) 玉菊燈籠恋の地獄
第10話 3/9(日) 「青楼美人」の見る夢は
第11話 3/16(日) 富本、仁義の馬面
第12話 3/23(日) 俄なる「明月余情」
第13話 3/30(日)わっちの光(仮)
2025年4月
【べらぼう 4月】あらすじ一覧
第14話 4/6 (日) 瀬川との別れ(仮)
第15話 4/13(日) 手袋に仕込まれた毒(仮)
第16話 4/20(日) 源内の死(仮)
第17話 4/27(日)
べらぼう9話:筆者の見解
放送後に記載いたします~!
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