2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」の第10話(3月9日放送)ネタバレ&あらすじを読みやすい吹き出し形式で記載します!
ついに瀬川を見受けできるぞ…
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:田安の種
江戸城の田安屋敷では、賢丸が一人静かに部屋で漢籍を読んでいました。
書物に集中しようとするのだが、年末には江戸の自河藩邸に移ることになっており、心中は穏やかではありません。
そこへ、十一歳になる妹の種加が器を手に入ってきました。
「兄上、これはなんの種で」
と器の中の黒い粒を見せます。
なんの種であったか。
昔、父上からいただいたものだ
「撒けば芽が出ましょうか」
ふと種姫の言葉が引っかかります。
このまま何もしなければ芽が出ることはない。しかしー…。
そうか、種を、撒けば……
賢丸は部屋を飛び出し、宝蓮院の部屋に向かいました。
母上!種!種を撒きましょう!
果気にとられている宝蓮院に駆け寄り、その手を取ります。
田安の種を撒くのです! 江戸城に
賢丸の目は、久しぶりに輝いていました。
数日後、西の丸御殿の一室で将軍世子の家基と生母の知保の方、賢丸と宝蓮院が顔を合わせました。
賢丸殿が城を出られるのは今年の暮れであったか
はい。こうして西の丸様にお伺いできるのも、あと幾度あることか
将棋を指す息子たちを見ながら、知保の方と宝蓮院が話します。
そばには松平武元が控えていました。
家基は盤面を睨みつけ、親指を噛んで次の一手を考え続けています。
賢丸が
西の丸様。そろそろ
とやんわり促します。
こうしていると、二人は長年共に過ごしてきた仲の良い主従のようです。
その様子を見ていた宝蓮院が、ふいに涙ぐみます。
宝蓮院殿、どうなさったのじゃ
知保の方が驚いて聞きます。
同じ吉宗公の血を引く者として、西の丸様をお支えしたいと
賢丸は望んでおりましたもので。
きっと西の丸様が将軍におなりになった時、
ああして盤を囲むのは、あの足軽上がりの息子なのでしょうね
田沼の息子……
知保の方も親指の爪を噛んで考え込み、武元に目を向けます。
どうにかならぬのか。右近将監殿
「一つだけ手がございますかと」
最初の種撒きは首尾よくいきました。
賢丸は家基を見つめながら、含み笑いを浮かべたのでした。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:あいつが喜ぶこと
駿河屋の二階では、吉原の親父たちによる将棋の会が催されていました。
最後の花魁道中は暮れだっけ
あぁ、正月ならよかったんだけどね
大文字屋と松葉屋が交互に駒を指しながら話します。
将棋よりも、瀬川の身請けの使い道のほうが本題のようです。
その横で盤を囲んでいた扇屋と大黒屋のりつも同じくで
正月なら、そこで細見も捌けたのにか
暮れに売っちまやいいじゃないか。
誰が決めたんだよ、正月って
それを聞いた丁子屋が
「そうか! 何もあいつらに合わせるこたないのか!」
と駒をパチリ。
対局相手の駿河屋はニヤリとして
正月の鱗の細見は売れなくなるかもしんねぇな
と王手をかけます。
親父たちは勢いづいて
ついでに女郎絵も売っちまうってのはどうだ
瀬川の「『次』をずらっと並べてね!
『雛形若菜』潰しちまえってね
などと盛り上がったのでした。
肝心の蔦車は次郎兵衛相手に長考中で、名前を呼ばれたことにも気づきません。
しかし、その頭の中で考えていたことは将棋の手ではなく瀬川のことでです。
重三郎っ!
駿河屋の一喝でようやく我に返ると、大文字屋が張りきって蔦重のそばにやってきました。
お前、瀬川の最後の道中に合わせて女郎の錦絵だせ!
次に売り出す綺麗どころズラッと並べてよ!
錦絵ズラリは金がかかりますが
いくらかかっても構わねえよ!あいつらをぶっ潰せんなら!
あいつらをぶっ潰す?
瀬川の道中盛り上げて、ついでに市中の本屋をぶっ潰しちまえって話よ!分かったな!
へ、ヘえ
とりあえず返事はしたものの、今の蔦重にはまるで覇気がありません。
なんであんなに血の気多いのかねぇ。あの人たち
仲の町を大門に向かいながら、次郎兵衛がため息をつきます。
お、瀬川だ
次郎兵衛の視線の先には、いねと一緒に引手茶屋から出てきた瀬川がいました。
祝儀物を抱えた若い衆を従えています。
身請け披露の挨拶に回っているのでしょう。
瀬川はいねと談笑しながら、次の店に向かっていきました。
良い思い出になったと突き返された半分の通行手形が、鈍い痛みと共に思い出されます。
…ほんとに出てくんだなぁ。あいつ
いつまでも未練がましく引きずってないで、前に進まねば。蔦重は自分を奮い立たせます。
…俺ゃずいぶん世話になったし、最後に何か餞しなきゃいけねぇですね
花魁道中を盛り上げてパーッと送り出しや、それでいいんじゃねぇの?
けどそりゃこちらが花魁を使って儲けてえって話じゃねぇですか。
もっと、あいつが心から喜ぶような
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:それほど悪くない
ん?おい重三あれ
と次郎兵衛が話の腰を折ります。
あれ確か出入り禁止んなった
西村屋と小泉忠五郎です。
二人は半籬の「若木屋」に入っていきました。
十九軒ある中見世のうちの一軒で、西村屋が昔からよく使っている女郎屋です。
義兄さん、ちょいと先戻っててくだせぇ
鳥重は胸騒ぎを覚えて駆けだしました。
開いている二階の窓越しに、座敷に人が集まっている様子が見えます。
引手茶屋や中見世、小見世の親父たちが西村屋と忠五郎を囲んでいるようです。
……なんだ、この集まり
若木屋の主人の与八が蔦重に気づきます。
蠅でも見るような目で蔦重を見下ろし、次の瞬間、障子窓がパシーンと閉まりました。
翌日、蔦重は市中に出て地本問屋を偵察することにしました。
どうにも胸騒ぎが収まらないのです。
目立たぬよう店先で錦絵を物色する客を装っていると、細見を求める客がやってきました。
「どうぞこちらです」
手代が客に持ってきたのは、西村屋の細見です。
もっと薄っぺらいのがあったと思うんだけど
「あぁ、もうありゃ市中では扱わないことになったんですよ。ありゃ吉原の本屋が出してんですけど、なんだか、もう市中になんか流さない、欲しけりゃ吉原まで買いにきやがれって」
なんだいそりゃ、ずいぶんいけ好かない本屋だねぇ
「まあ、吉原者はねぇ」
よもやこんなことになっているとは……。
しかし、それだけではなかった。蔦重の前を通りかかった屑屋の引き車に、蔦重の細見『雛の花』がまとめて積まれているではないですか。
これ、肩にすんですかい?なんだかもったいねぇですけど
「本屋のあいだでもう扱うなってことになったらしいよ。
なんでも吉原の奴らが市中で商いさせろって無体なこと言ってきて、
丁寧に話しにいったら問答無用で殴られたって」
そういう話になっているのか……
愕然としていると
お、蔦重じゃねぇか?
と声がかかりました。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:源内の助言
源内は、今日は正真正銘、「平賀源内」とした風貌風格です。
あ!そうだ!瀬川が金の亡者に身請けされたってほんとかい?
源内先生。俺このままじゃまずいかもしんないです
え、そりゃあ瀬川の身請けぶっ潰したくなったとか?
いえ、ぶっ潰されるのは俺のほうかも
え!もう何かやったの?
まったく話が噛み合いません。
蔦重は一呼吸置いてから
あの、ちょいと落ち着いて相談乗ってもらうことって……
そこへ
源内さん、お待たせお待たせ
と追いかけてきた者がいました。
蔦重に気づいて「お」と顔を綻ばせるここにも心強い助っ人が一人。須原屋です。
蔦重は源内と須原屋にくっついて芝居町にやってきました。
はぁ、市中の本屋に威勢よく縁切りしたけど、現には吉原のほうは切り崩され、市中の本屋には締め出されるってコトんなっちまったと
道すがらに聞いた蔦重の話をまとめつつも、源内の目はすれ違う男前の役者の卵たちに吸い寄せられていきます。
そうなんです、このままいくと前の吉原に戻っちまうんじゃないかって。……聞いてます?
好みの男に秋波を送っていた源内は
聞いてる聞いてる
とごまかし、とある芝居小屋の前で立ち止まりました。
ここに用事があるらしい。
半ほどで終わるんで、ちょいとそのへんで遊んどいとくれ
源内と須原屋は中に入っていきました。
……まあせっかくか
とぶらぶら歩きだします。
芝居町の風景は存外面白かったのでした。
役者が稽古していたり、飯を食っていたり、賭け事をしていたり。
舞台では見ることのない普段の姿が新鮮で、蔦重はつかの間悩みを忘れて散策を楽しみました。
絵草紙屋を見かけると、商売柄立ち寄らずにはいられません。
一枚の役者絵が目に留まります。
お、春章
勝川春草は、役者絵や相撲絵で大人気の浮世絵師です。
が、その絵に春草の印はなく、「豊章」と入っています。
蔦重の知らぬ名です。
「騙されたね。今は『春章風』流行ってっからね」
店の者が笑いながら教えてくれます。
ほかにも「新章」「夏草」「青章」など、店先には様々な春章もどきの絵が並んでいました。
皆、たくましいな
蔦重も笑ってしまいました。
「だろ?春章は好きかい?」
良いですよねぇ。役者が息をしてるようで……。
けど、なんで役者絵ってこういう役者姿だけなんでしょうね。
役者をしてねぇ時の役者を描いたって良いと思うんですがねぇ
さっき見た役者たちの素顔。
ああいう日常の姿も、人々は見てみたいのではあるまいか。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:やりてぇこと
そりゃあ、めでてぇことで!
ふいに明るい声がしました。
声に聞き覚えがあると思ったら、鱗形屋です。
商売相手だろうか、中年の男と話しながら歩いていきます。
一時はやつれていたが、今は以前のように血色がいいようです。
お待たせ。どうかしたのかい?
用事が終わったようで、蔦重の後ろから須原屋が声をかけてきます。
あ!今、鱗の旦那がいて。ずいぶんとお元気そうで
……あぁ、青本も調子良いようだしな。
気がかりはそのあたりだったな、源内さん
須原屋が振り返ると、源内ははるか後方の別の絵草紙屋で若い男を口説いています。
源内さん!行くよ!
さしもの須原屋も呆れて源内を引っぱってきました。
まあ、お前さんが慌てるほど、事は悪くはねぇと思うんだよな
居酒屋で酒を飲みつつ、須原屋が言います。
ほっといても鱗形屋は細見作って売ってくれるわけだろ。
西村屋だって豪華な錦絵を作るわけだし。
つまるとこ二人とも張り切って吉原に客呼んできてくれるってことになんないかい
あぁ、そうだ。そうですね!そうだ!
蔦重は思わず声を張り上げました。
ちなみに源内は隣でガツガツと飯をかき込んでいます。
だろ?引いた目で見るってなあでえじなことよ
目から鱗が落ちました。
思い返してみれば、蔦重は森を見ずに近くの木ばかり見ていた気がします。
ま、残るはそのうえで、お前さんがどう出るかってことだあね。
そうしろたあ言わねえけど、事がすんなり収まるのは、お前さんが元のように『改』に徹するってことだ。
向こうもそれならお前さんを喜んで受け入れるだろうし
けど、それをすりゃ、つまるとこは元の木阿弥になっちまいませんかね
西村屋たちは甘い汁を吸うことしか頭になく、とても吉原が良くなるとは思えません。
改の立場でそうならねぇようにするってのもあるぜ
須原屋の言うことも一理あります。
あるのだが、どうにも受け入れられない自分がいます。
もうやりてぇことやったら?
飯を食い終わった源内が、楊枝を使いながらあっけらかんと言い放ちます。
吉原の親父さんたちは、お前が錦絵なりなんなり作んなら金はいくらでも出すって言ってんだろ?
俺がお前さんなら、なんだかんだ託を並べて
テメェのやりてぇことやっちまうね
やりてえこと
そうよ。お前さんのやりてぇことって何よ
蔦重は少し考えてから、ため息と共にかぶりを振ります。
……ダメだ。言えねえです、とても。
笑われまさぁね、絵に描いた餅だって
源内と須原屋が
笑わねぇって!
笑わない笑わない
と口々に蔦重を促します。
まぁ笑われたっていい。それよりもずっと胸に温めてきた思いを二人に聞いてほしかったのです。
……俺は、吉原を昔のように江戸っ子が憧れるとこにしてえです
吉原者には市中に加わってほしくない、などと蔑まれぬように。
いつもでんと構えている親父たちが、必死になって抗議しなくて済むように。
いかがわしい離れ小島って見下されんじゃなくて、
あそこで遊べなきゃ一流じゃねぇって言われるような、
見上げられる場所で
そうなればうつせみが首にあざを作ることも、松の井の誇りが傷つくこともないのです。
そこにいる花魁なんてな男にとっちゃあ高嶺の花で、だからすごく大事にされて。
女郎たちにとっちゃあ、身請けやいい出会いに恵まれるって場所で
そこには、惨めに打ちひしがれている新之助のような男も、暗い穴に放り込まれた朝顔のような女もいない。
つらいことより楽しいことのほうがずっと多い。
俺あそんな場所にしてえです、吉原を。そんで……
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:あいつを喜ばせたい
その刹那、脳裏に瀬川の面影がよぎりました。
吉原をなんとかしたいのはあんただけじゃない
と言った、瀬川の面影がー…。
そんで、あいつを喜ばせてぇ
つい口走ってしまいました。
すかさず須原屋が
あいつって?
と聞いてきます。
あ!あ、瀬川花魁ってな実は俺の幼馴染みでして。
世話んなりっぱなしのまま、見送ることになっちまって。
ずっと何かあいつを喜ばす手はねぇもんかって考えてたもんで、つい
照れ隠しに笑って言い訳する蔦重に、源内がいつになく真剣な顔を向けてきました。
いいじゃねえか、蔦重。
花魁のために吉原を皆が仰ぎ見るトコに変えてやろうぜ。
それこそチ千代田のお城みてえによ
お城?そのとたん、蔦重の頭が凄まじい速さで回転し始めました。
…….これだ
次に蔦重の口から出てきたのは、突拍子もない発想です。
あの、作った吉原の絵を上様に献上するってなぁ、できねぇでしょうか
源内と須原屋は、二人してぽかんと口を開けました。
いや、まことに見てもらわなくて構わねぇんですが、
その噂が欲しいんです
お城に納められているとなれば人々はこぞって絵を求め、神棚に飾り、上様がお忍びで吉原に行っているかもしれないとの話がまことしやかに広まるでしょう。
それがありゃ、間違いなく吉原の格が上がりませんかね?
大胆と言おうか図々しいと言おうか……しかし、理にはかなっています。
須原屋はちょっと考え、源内のほうを見やります。
……まぁ、少なくとも田沼様までは持っていける、よな?
蔦重の背筋に戦慄のようなものが走ります。
絵に描いた餅が、本物の餅になるかもしれない。
ちくしょう。なんだかゾッとしてきやがったぜ
源内も蔦重同様、いやそれ以上に興奮しています。
よし、蔦重!
一つ、世の中が引っくり返るようなもんぶち上げてやろうじゃねえか!
へぇ!
蔦重は帯にさして持ち歩いている矢立と紙を出し、その場で企画を練り始めたのでした。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:貸付だ!
恐れ多くも上様に郎の絵本を献上する1蔦重の話を聞いた親父たちは目を白黒させました。
べ、べらぼうめ!んなことできるわけねぇだろ!
怒鳴り散らす大文字屋に、蔦重は丁寧に説明しました。
けど、源内先生を通せば、田沼様までは間違いなく持ってけるんですよ。
まず本はまちげえなく売れます。
ご献上って箔がつきゃクソでも売れるのが江戸でさね
親父たちの眉間のしわが徐々にほどけていきます。
それに、吉原が上様に献上したって知れ渡れば…
その先をりつが取ります。
上様が来てるかもしんないなんて噂が立つ!
そう、そうすりゃ吉原の格も間違いなく上がりまさね!
格が上がりゃあ、客筋は良くなるな
と扇屋がニヤリ。
蔦重はうなずき
客筋が良くなりゃ、落ちる金は増える
と続けます。
豪儀な身請けもぼんぼん出る!
と大文字屋は捕らぬ狸の皮算用、察しの悪い丁子屋も「良いことづくめってわけか!」と納得顔になります。
その絵本を瀬川の最後の道中に合わせて売るってことかい?
松葉屋に聞かれ、蔦重は
そういうことです!
と大きくうなずきます。
けど……献上できるような絵本は相当値の張るモンになっちまうだろ。
そんな高え本、江戸市中抜きで捌けんのか?
扇屋が懸念を口にします。
蔦重は
そこなんですけど
と皆を手招きし、額を突き合わせてコソコソと腹案を告げました。
親父一同、またしても大驚の体である。
そんなことできんのか?
半信半疑の大文字屋に
へぇ、そこはもう目星がついてまさ
と自信たっぷりに答えます。
そりゃあ、もうあいつら、火い噴いて悔しがりそうだな
あいつらには決してできないことやるってことだもんねぇ
扇屋とりつは痛快無比の笑み、大文字屋たちから「よし乗った!」「俺も!」と声があがります。
ありがとうございます。
じゃあ、皆様には、本のかかりのお願いをしてぇんですが
おお、おお!いくらだ!いくらでも言え!
カポチャの大文字屋が太っ腹に言い放ちます。
ありがとうございます!けど、外に漏れたくねぇですし、
一つ女郎たちではなくここにいる皆様だけで入をお願いしたいんですが
うっせえなぁ。
ま、いいや。で、いくら都合すればいいんだ
では、百両ほど
その場が一瞬で凍りつきます。
ひ、百?
大文字星の顔から血の気が引きます。
「せ、せめて半分になんねぇか」と丁子屋も急に及び腹になります。
なんねぇです。
ご献上するにふさわしい逸品に仕上げるにゃあ、これでもギリギリで
萬重はきっぱり言いきりました。
しかし、親父たちもおいそれと出せる額ではありません。
一同が戸惑っている中、駿河屋がやおら自分の財布を取り出し、それを叩きつけるように置きました。
俺が五十もつ。残りを皆にお願いしろ
蔦重は感激しました。
これぞ江戸っ子!さすが駿河屋の親父様だ。
親父様、ありがとうござ……
ただし!そいつは入銀じゃねぇ、貸付だ
へ?
ふーん。でかい口きいても、返せる見込みは立ってねぇってことか?
やけにきつぶがいいと思ったら、やっぱり骨の髄まで忘八です。
蔦重は意地になってニッコリ笑いました。
いいえぇ、こりや売れますから。
売ってご覧にいれましょう!
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:将軍への献上本
その日、蔦重は二人の浮世絵師を連れて仲の町を歩いていました。
まさか春章先生に加わっていただけるなんて
一人はあの勝川春章、もう一人は、以前『一日千本』の挿絵を描いてもらった北尾重政です。
「蔦重さんに誘われたら断れねぇよ」
「ご近所さんだしねぇ」
面倒見の良い蔦重は、春章だけでなく多くの後進に慕われているようです。
「まあ、春章は女が描けねえなんて奴らもいるからよ」
春章がフンと鼻を鳴らします。
なかなかの負けず嫌いのようです。
松葉屋に二人を案内します。
昼見世までの自由な時間、女郎たちは文の内容を考えていたり、数人でおしゃべりしたり、芸事の練習や遊びに興じたり、思い思いに過ごしていました。
「客に見えてねぇとこじゃこんな具合なのか」
春章は好奇の目ではなく絵師の目で、興味深そうに女郎たちを見回しています。
部屋の隅で本を読んでいた瀬川は、遠目から蔦重一行の様子を見ていました。
「また本でも作るのでござんすか?」松の井が通りかかったいねに聞いています。
そうらしいよ。次に売り込む女郎の絵本だってさ
……次、か。
瀬川はぽつりと呟き、再び本に目を落とします。
春章たちを二階に案内しながら、蔦重もまた、本を読んでいる瀬川を見つめていました。
完成した本を引っさげ、源内、駿河屋、扇屋、そして蔦重は田沼屋敷に乗り込んだのでした。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:上様にご献上を
意次に色摺りの紙で包んだ特製の絵本を上納し、源内が口火を切ります。
吉原は天下御免の色里。
ぜひ、上様にご献上をお願い申し上げます!
四人揃ってバッと頭を下げると、意次は面食らったような顔になりました。
……面を上げよ。そのほうら、なにゆえ、かような本を?
それは…
と顔を上げた扇屋は先が続かず
こちらの者より…
と未席の蔦重に振ります。
蔦重は小さく咳払いして、居住まいを正しました。
では僭越ながら経織を申し上げます。
此度、瀬川と申す女郎がめでたく落鶏と相成りまして
ありがた山?
お前、ありがた山ではないか?
……お!覚えててくだすってたのですか!
感謝感激雨あられの蔦重に
あのような礼を申した者は、ほかにはおらぬしな
と意次は楽しそうにしています。
確かに、偉い老中の前で庶民の洒落など口にする者はいないでしょう。
然様で、いやまことそれはかたじけ茄子
ウケるのではという下心で言ってみます。
かたじけないということか?
大当たりのこんこんちき、仰せの通り油町にございます!
そのように調子良く使うのだな
意次は大いに気に入ったようです。
この感じならトントン拍子に話が進むのではないでしょうか。
ところで、先ほどの瀬川というのは今年甦ったという名跡か
然様にございます。その者の落籍を祝い、かつ、天下免の色里にふさわしい絵をもって吉原の格を上げたいとー
気をよくしてペラペラ本音を明かす蔦重に、すかさず駿河屋が声を被せます。
徳川様のご威光をささやかながら世に伝える所存にございます
意次はうむとうなずき、笑みを浮かべて蔦重たちに言いました。
実はその『瀬川』の道中の話は『社参』を考え直すきっかけともなったものでな。
これは恩を返さぬわけにはいかぬな
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:将軍家の養子
江戸城の御座の間。
家治と謁見した意次は我が耳を疑いました。
…田安の姫を、上様のお子になさるのでございますか
特製の絵本は三宝の上に載せられたまま、意次の傍らにあります。
ゆくゆくは家基と夫婦とするつもりだ
なにゆえそのような次第に
平静を装って尋ねると、家治はため息をついて言った。
白河行きをなしにしろと今度は家基が言いだしてな……
賢丸も承知した話ではないかと一度は突っぱねたが、家基は真っ向から父親を詰問してきました。
それができぬなら、田沼をお退けください。
田沼は汚い手を使って賢丸を追いやった。
喧嘩は両成敗にございましょう
……これは喧嘩ではなかろう。
汚い手を使ったというが、そんな証がどこにある
身内を切って捨てられ、憤るどころかかばわれる。
そんな具合であるから、成り上がりの傀働と揶揄されるのではないですか?
家治がぐっと詰まると、そばに控えていた武元が「お言葉が過ぎまするぞ!」と家基を一喝しました。
家基は
…..御無礼を
と頭を下げましたが、あの揄こそ家基の本音であるのでしょう。
「しかしながら上様」と武元は少し膝を進めて言います。
「揉めに揉めたこの件、改めて田安にお慈悲をいただけませぬでしょうか。上様と西の丸様の間に禍根を残さぬためにもどうか!」
この世で家治が唯一恐れているのは我が子、しかも家基はたった一人の男子です。
武元も知保の方も、将軍の弱点を知り尽くしているのでありました。
意次はただただ呆然として、屋敷に戻っても打ち沈んだまま夜の庭を眺めていました。
これで賢丸様は次の将軍の義理の兄。種姫様が子でももうけられれば、もう盤石だな
意知も三浦庄司を相手にため息をつきます。
「まさに田安の種撒き、にございますな」
つい軽口を叩いた三浦を、意次が
笑い事ではない
と睨みます。
意知には、そんな父親が神経質すぎるように思われたようです。
しかし、西の丸様が将軍になられるのはまだまだ先。
然様に思い詰められずとも
意次は、蠟燭の灯に近づいてくる羽虫に目をやります。
……虫は自ずと明るいほうへと寄っていくものだ。
この話を聞き、田沼のこの先が明るいと思う者はおるまい。
人が離れる
羽虫を捕えてぎゅっと握り潰すと、意次は僧々しげに「白眉毛め」と呟くのでした。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:瀬川の涙
市中のあちこちに「瀬川花魁落籍名残の道中 甘三日七ツ刻より」と書かれたチラシが貼られています。
いよいよこの日を迎え、蔦重は駿河屋に集まった親父たちに今日の道中の説明を終えました。
では皆さん、本日七ツ刻(午後四時頃)より、よろしくお願いします!
親父たちが手に手に絵本を持って解散していきます。
蔦重は急いで松葉屋を追いかけました。
松葉の親父様!
あの、瀬川花魁に渡してもらっても良いですか?
差し出された絵本を、松葉屋はじっと見つめました。
蔦重の思いが込められた本。
ただでさえ大判の絵本は、そのぶん持ち重りがしそうでした。
……忙しいから自分で渡しとくれよ
え!……いいんですか?
え?なんでダメなの?
とぼけて逆に問い返してきます。
松葉屋の気持ちを、蔦重はありがたく受け取りました。
……でさね。じゃ、テメェで渡します
深々と頭を下げると、蔦重は瀬川の元に向かいました。
瀬川の部屋はほとんど物がなくなって、ずいぶんと殺風景でした。
スッキリしてんなぁ!まぁ!
売れるもんは売っちまったし、皆なんだかんだもらってくれてね
蔦重は、部屋に唯一残っている衣桁の着物に目をやりました。
あの花嫁衣裳をまとい、瀬川は今日、この吉原を出ていく。
もう二度とこの町に帰ってくることはない。
……今日から売り出す吉原絵本なんだけどよ。餞別にでも
蔦重から絵本を受け取ると、瀬川はくすりと笑いました。
あんたが何かくれる時はいっつも本だなって
絵本の題名は「青関美人館製鏡」。
大本三冊一組で、技術と贅のかぎりを尽くした世にも美しい本です。
借しまず金をかけ、序文には蔦重が自ら文を寄せました。
まぁ、こりや、またずいぶん立派な
初めの頁には四人の花魁が載っています。
その中に瀬川もいました。
これ、わっちも載せてくれたのかい?もう出てくのに
そりゃあ、瀬川の最後の絵姿だって謳わせてもらいますんで
最初で最後さ
え!そうだったか!
言われてみれば、これまで瀬川の絵を見た記憶がありません。
そう、わっちの絵はこの世にこれきりさ。
ふふ、嬉しいもんだね
瀬川はしげしげと自分の絵を見つめています。
その姿を見て、蔦重は嬉しそうに微笑みました。
わっち、本、読んでんだね
あぁ、それが一番お前らしい姿かと思ってよ
瀬川が頁を繰ります。
庭でおしゃべりに興じているのは松の井たちです。
小鳥と遊んでいたり、桜を愛でている女郎たちの絵もあります。
いいだろ。なんかのんびりしてて。女郎をしてない時の女郎の絵ってのも
ずるいよ。こんなふうに描かれると、楽しかったことばかり思い出しちまうよ
そう言って、瀬川は目頭を押さえました。
思わずその肩を引き寄せたくなります。
どこにも行かせたくなくなります。
蔦重は、葛藤を振り払って笑顔になりました。
……花魁。俺あここを楽しいことばかりのとこにしようと思ってんだよ。
売られてきた女郎がいい思い出いっぺえもって、大門を出てけるとこにしたくてよ
そんな他里あるわけないじゃないか
瀬川に呆れられたが、構わず蔦重は続けました。
いい男やいい身請けがゴロゴロあって、年季明けまでいる奴なんかほとんどいねえのよ。
吉原に来りゃ人生が描けるなんて言われて。
そのうち、わざわざやって来て、うまくやってやろうなんて太え女も出てきたりよ
馬鹿らしうありんす
瀬川が笑って答えます。
その笑顔を、蔦重はまぶたに焼き付けました。
……な。馬鹿みてえな、昼寝の夢みてえな話さ。
けど花魁もおんなじだったんじゃねぇの?
意味が分からぬという顔の瀬川に、蔦重はまっすぐな眼差しを向けました。
こりゃ、二人で見てた夢じゃねぇの?
一緒に生きていく夢は叶わなかったけれど、二人にはもう一つ大事な夢があります。
だから俺あ、この夢から覚めるつもりは毛筋一本ほどもねぇよ。
俺と花魁をつなぐもんはこれしかねぇから。
俺あその夢を見続けるよ
……そりゃあまぁ、べらぼうだねぇ
そう言うと、瀬川は顔をくしゃっとして笑いました。
あどけない幼女のような笑顔でした。
鷹重の言葉が嬉しかったのです。
けれど好いた男と歩めぬ現実はその分だけ切なくて、一筋の涙が瀬川の頬を伝うのでした。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:瀬川最後の花魁道中
その時、トン!と太鼓が鳴りました。
瀬川最後の花魁道中をひと目見ようと、伸の町の道沿いには黒山の人だかりができています。
「瀬川だー!」
花嫁衣装を身につけた瀬川がきりりと顔を上げ、見事な外八文字を描きながら歩いきます。
何にも媚びない、けれどどこか優しいーそんな風情をまとわせた唯一無二の花魁の姿に、人々は息を呑んで見入っています。
瀬川の後ろから松の井が登場しました。
その艶やかさに見物客がワッと沸きます。
志津山、常磐木、玉川、仙菊、嬉野、勝山。
個性豊かな花たちが次々と現れ、群来は熱狂のるつぼと化しました。
「これが吉原よ」
群来の中で平沢常富が一人笑みを浮かべます。
瀬川の花魁道中に従っている松葉屋と女将のいね、遣り手のまさ、見物しているほかの親父たちも誇らしそうです。
先頭を行く瀬川の視界に、大門の内側で待っている蔦車の姿が入りました。
二人の胸に、吉原で一緒に過ごした年月とさまざまな思い出が去来します。
瀬川が笑う。
蔦重も笑いました。
もう言葉はいらない。別れの涙もありません。
瀬川は蔦重の前で歩みを止め、後ろを振り返りました。
外八文字の跡が、少しの乱れもなく均一に、美しい線を描いています。
町に向かい、しばし頭を下げます。
おさらばえ
踵を返し、前だけを見て大門を出ていきます。
大門の外では、従者を連れた鳥山検校が瀬川を待っていました。
駿河屋とふじもいます。
皆が瀬川を取り囲み、その姿はとうとう蔦重の視界から消えて見えなくなりました。
べらぼう10話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:売り出し開始
さあ、ここからが二人の夢の始まりです。
蔦重が町に向き直ったのを合図に、留四郎が太鼓をドン!と鳴らします。
トウザイトウザイご注目!
今日吉原の売りたるは、世にも稀なる女郎絵本!
『青楼美人合姿鏡』を大きく掲げ、町中を進みながら大声で呼びかけます。
蔦重に呼応して、店や通りに散らばった親父たちと若い衆が一斉に絵本を掲げました。
人々がなんだなんだと集まってきます。
稀なる!どこが稀なるか!
絶妙の合いの手は、これも「青美人合姿鏡」を掲げて蔦重の後ろを歩く次郎兵衛です。
まずは瀬川が載っている。なんとこいつぁ最初で最後の絵姿だ!
世にたったの一枚ときたもんか!
ずらり並んだ花魁たち、実は漏れなく載っている!
今度は花魁たちが一斉に優雅な流し目をくれる。
老若男女、みな沸きに沸きました。
とどめにこいつは極め付き。
うそか真か、上様もご覧になったという噂!
群来の興奮が最高潮に達したところで、再び留四郎が太鼓をドン!
お求めの方は、大門をちと出たところ五十間の『蔦屋」まで一
「……暮れに吉原で細見がばら撒かれた?」
地本間屋の会所で話を聞いた鶴屋は、少しばかり眉をひそめました。
これじゃ年明けの細見なんて売れやしねぇ
鱗形屋が舌打ちをします。
そこへ西村屋が、「青美人合姿鏡」を手に駆け込んできました。
こ、これ、須原屋で売ってた!
あの小僧が出したって献上本だよ!
蔦重の本を書物問屋が?ありえねえだろ!
山崎屋を相板元で入れたんだよ。
あいつ、私らの裏をかきやがったんだよ!
目には目を、歯には歯をでやり返されたというわけです。
鶴屋が「よろしいですか?」と西村屋から蔦重の絵本を受け取り、中をめくり始めます。
問い合わせがひっきりなしらしいよ。
こんなもん出されたらウチの『雛形若菜』は…
頭を抱えている西村屋に、鶴屋はフッと笑って言いました。
「ご案じなく。この本は……売れません」
べらぼう次回放送
次回のべらぼうネタバレ第11話はこちら
【べらぼう11話】ネタバレとあらすじを吹き出しで解説!3月16日放送(2025年大河)
べらぼうのネタバレとあらすじ:一覧
2025年3月
【べらぼう 3月】あらすじ一覧
第9話 3/2(日) 玉菊燈籠恋の地獄
第10話 3/9(日) 「青楼美人」の見る夢は
第11話 3/16(日) 富本、仁義の馬面
第12話 3/23(日) 俄なる「明月余情」
第13話 3/30(日)わっちの光(仮)
2025年4月
【べらぼう 4月】あらすじ一覧
第14話 4/6 (日) 瀬川との別れ(仮)
第15話 4/13(日) 手袋に仕込まれた毒(仮)
第16話 4/20(日) 源内の死(仮)
第17話 4/27(日)
べらぼう10話:筆者の見解
放送後に記載いたします~!
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