2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」の第11話(3月16日放送)ネタバレ&あらすじを読みやすい吹き出し形式で記載します!
ナイスなことをひらめいたわよ~
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:蔦重の吉原細見は買わない
駿河屋の二階の座敷には、吉原じゅうの引手茶屋や女郎屋の親父たちがずらりと居並んでいます。
細見の納品にやってきた蔦重は、その中に若木屋の姿を見つけました。
目が合ったので会釈し、駿河屋に耳打ちします。
珍しいですね、若木屋さん
お前のほうを入れるって気になったんじゃないか?
蠅を見るような目で障子窓をパシーンと閉められたことを思うと、その可能性は薄そうです。
人も揃ったようなので、板元の蔦重が挨拶に立ちます。
皆様お集まりいただきありがとうございます。来春の細見が出来上がりましたので
「その前に、俺からいいか」
と若木屋が蔦重の口上を遮りました。
若木屋の周辺にいる桐屋などの一団がうなずき合います。
いずれも中見世・小見世の親父たちで、若木屋はその代表らしいのです。
「俺たちは耕書堂の細見は入れない。鱗形屋板を買うことにした」
座がどよめいたが、蔦重はさほど驚きはしませんでした。
「お、お前、そりゃどういう了見だよ!」
丁子屋が若木屋に食ってかかります。
「俺たちはお前らのやり方には乗らねぇ。
「雛形若菜」にも載つけてもらいてえし。市中の本屋と付き合いてえってこった」
言っただろ!
あいつらは吉原もんは市中に出てくんなって言ったんだぞ!
大文字屋が色をなして抗議するも、若木屋は聞く耳を持ちません。
「てめぇらの都合ばっかで決めてんじゃねぇよ!吉原はテメェらのモンじゃねぇってんだよ」
喧嘩腰で言い放ち、座敷を出ていきます。
若木屋と意見を同じくする親父たちもずらずらと従い、半数程度がいなくなってしまいました。
大文字屋と丁子屋が慌てて追いかけていきましたが、蔦重は半ば予想していました。
吉原の中には、市中の本屋を馴染みに持つ見世も少なくないのです。
西村屋と若木屋が手を組み、地本問屋とやり合った駿河屋たちを悪者にして、桐屋などの親父たちを取り込んだのでしょう。
大文字屋がカンカンになって戻ってきました。
説得どころか、また言い争いになったに違いありません。
重三!お前、献上本売れまくってんだろうな!
『雛形若菜』、ぶっ潰せんだろうな!
蔦重は曖味に笑ってやり過ごしました。
肩には百両がずっしりとのしかかっているのです。
親父たちの前であれだけ大見得を切った「青楼美人合姿鏡」ではありますが、これがなかなか、正直、まったく売れないのです!
景色の中に女郎を描くという斬新な内容、しかも絵は勝川春章と北尾重政。
市中の地本問屋たちは度肝を抜かれて悔しがったはず。確かに二十処と安くはないが、そのうち評判が立って火がつくだろう、そう自分を励ましつつ蔦屋に戻ってくると、客の相手をしていた留四郎が蔦重を見て言いました。
あ、戻ってきましたよ
パッと振り返った客の目が異様に輝いています。
四十がらみの身分のありそうなお武家さんで、見たことのあるような顔です。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:喜三二との出会い
これ作ったの、お前さん?
客が手にしているのは、「青陵美人合姿鏡」です。
いや、いいもの作るねぇ。これはいいよ、いいっ!
手放しで称賛され、へこんでいた蔦重はいっぺんに浮き上がります。
あ、ありがとうございます!
あの、どこかでお会いしたことありませんか?
まあ、どっかでは会ってんじゃねぇかな
この平沢常富と蔦重、実は吉原のありとあらゆる場所で数え切れぬほどすれ違っているのでした。
そして本日この日、記念すべき初の御対面となったのです。
それよりこの本いいねぇ。
絵も面白いし、あの志津山が筆強くなんてさぁ。
ふふ。いいねぇ
平沢はニヤニヤと妄想に耽り始めました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:借金を帳消しに?
このような吉原マニアはいたものの、その後も蔦重渾身の『青楼美人合姿鏡』は一向に売れる兆しはありませんでした。
本のために大金を払うのであれば、よほどの浮世絵好きか吉原好きでないかぎり、本物の女郎を買いにいくでしょう。
「売れない」と鶴屋が予見したとおりになったのでした。
三味線の弦が派手な音を立てて切れ、蔦重はビクリとしました。
で、どうなってんだよ、重三
大文字屋が物騒な目つきで蔦重を睨みつけます。
座敷でもまったく献上本の話聞かねぇんだけどよ
松葉屋も基だ不機嫌。
それもそのはず、暦はもう四月、桜は満開を過ぎてすでに葉桜に近い。
蔦重は親父たちの三味線の会に呼び出され、業を煮やした親父たちから吊るし上げを食らっている最中なのです。
まぁ値も張るので、気長に構えたほうがいいかと。
…けど、いつまでもお待たせするのもなんですし
蔦重は一同の前にずずいと在庫の山を押し出しました。
もはや開き直るしかありません。
こちらを馴染みのお客様などにお配りいただき、
実入りに繋げていただきたく
これで借金をなしにしろってことか?
と扇屋。
そうとも言いますかね
扇屋が無言で駿河屋を見ます。
駿河屋が心得顔でうなずく。
その結果、蔦重はいつもの倍の勢いで階下にぶん投げられたのでありました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:俄
数日後、須原屋が本の売れ行きを心配して、わざわざ蔦重を訪ねてきてくれました。
そうか。ほとんどは女郎屋で馴染みに配ったのか
ええ、手元にゃ借金だけが残りました。
本のかかりを吉原の親父様たちに借りたもんで
ああ、なんだ、身内からか
身内でもきっちり取り立てる人たちですけどね…
蔦重は情けなさそうに笑いました。
しかも駿河屋にぶん投げられた時に脚を痛め、添え木をして歩いている始末です。
須原屋が、肩を落として丸まっている蔦重の背をバンと叩きました。
吉原をもっぺん憧れのトコにすんだろ!一度のしくじりでしょげてどうするよ!
けど、次、何やりゃいいんでしょう。俺
須原屋はうーんと腕組みして考えました。
色町ってこた一回忘れてよ。
つまるとこ、人ってなぁどんな町に憧れるのかね
そりゃあ面白えもんがいっぺぇあるとか、
楽しいことがいっぺぇ起こるとか?
んじゃ、そういう町にすりゃいいってことじゃねぇか
須原屋がカラカラと笑います。
そりゃごもっともですが
そんな話をしていたところ、駿河屋の親父が蔦重を呼んでいると留四郎が知らせてきました。
駿河屋の二階には、いつもの面々が集まっていました。
俄を?
ちなみに蔦重の座る場所は廊下に逆戻りです。
あぁ俄じゃ俄。俄を祭りに、あ、祭りにするのだぁぁ
大文字屋が歌舞伎役者よろしくクワッと見栄を切りました。
女子供も招き寄せ、神田に負けぬ祭りとするう
大黒屋のりつも芝居がかった口調で続けます。
駿河屋と丁子屋が大向こうを気取り
「よっ!大黒屋!」
「カボチャ屋」
と声をかけます。
俄とは芸者衆を中心に吉原で小さく行われていた催し事で、「いきなり=俄」に歌舞伎の真似事などを始めるという、お座敷芸から始まった独特の遊びです。
すでに話が進んでいるらしく、座敷には歌舞伎の役者絵や浄瑠璃の正本(詞章に節付を施した冊子)などが散らかっています。
またなんでいきなり
蔦重は今一つ話についていけません。
ご社参があったろ。
あれでやっぱり客を引くには見世物だろって話になってよ
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:馬面太夫
先ごろ、吉宗公以来四十八年ぶりの日光社参が行われました。
神君家康公の墓参りです。
出立だけで十二時間もかかったというその長い長い行列は、民草をいたく喜ばせました。
そして、それを見物していた大文字屋に
これだよなぁ
ひらめきを与えたのであります。
松葉屋と扇屋も大いに乗り気になっています。
吉原ができる一番でけえ見世物は祭りじゃねぇかってねぇ
ま、老若男女楽しめるものにすりゃ、吉原の評判も上がんじゃねぇかってことでな
これだー!
蔦重は頭をガツンと殴られたような気がしました。…と思ったら、大文字屋に丸めた正本で頭をバコンと叩かれたのでありました。
お前なんだその面!祭りに客が来りゃそこで本だって売れる、こりゃお前のための話でも…
大文字屋に最後まで言わせず、蔦重は鼻息荒く言い募ります。
違いまさ! すこぶる良いなって思ったんです!
確かに、祭りのある町ってなぁ、良いですよ!
楽しそうだって、人が憧れまさね!
でさ、その祭りの日玉に馬面太夫を呼びたいんだよ
とりつ。
はぁ、馬面太夫を!
馬面太夫が来れば、そりゃあもう人もわんさと押しかけるからさ
そりゃあもう請け合いのスイカでさ!
ところがさ、私たちは馬面太夫に見知りがないんだよ
と言いながら、りつが同意を求めるように大文字屋を見やります。
そこでお前に源内先生や春章先生。そのへんから当たってくれねえかって話だ
分かりやした!で、その馬面太夫ってどこのどなたで?
すっかり調子づいて蔦重が言うと、一同はもれなくあ然としました。
あんた、ほんとに江戸っ子なの?
ことに呆れているのは、芸事が達者で芸能にも詳しいりつです。
なんで馬面太夫知らないんだよ。今人気の富本節の太夫だよ。
吉原でもそこここの座敷で富本やってんだろ
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:浄瑠璃
翌日、蔦重はりつに連れられ、杖をつきつき芝居町にやってきました。
俺もしょっちゅうやってんじゃない
とは次郎兵衛です。
実は新之助が聞かされていた、あの恐ろしいがなりが富本節だったらしいのです。
「常磐津に海東、浄瑠璃の流派はいろいろあるけどさ。これからどんどんのしてくよ。富本は」
浄瑠璃は三味線を伴奏にして太夫が詞章を語る劇音楽で、劇中人物の台詞や仕草など演技描写が入るため、「歌う」より「語る」要素が強いのです。
ゆえに浄瑠璃は「語り物」と呼ばれています。
りつが
あ、待って
「と絵草紙屋の前で足を止めました。
店先にさまざまな流派の正本が並んでおり、浄瑠璃好きのりつと次郎兵衛はさっそく手に取って物色し始めます。
その表紙には、同じ演目でも「直伝」と書かれたものと書かれていないものがあります。
義兄さん、この『直伝」のあるなしって何が違うんですか?
次郎兵衛は考えたこともなかったらしい。が、りつはさすがに詳しかったのです。
「直伝」ってのは、この浄瑠璃の本元の太夫の許しを得て出してんだ。
ないのは勝手に出してるやつ。
「直伝』のほうが間違いがないし、よく売れるんだよ
三人がやってきた芝居小屋は満員御礼のすし詰め状態です。
とりわけ女客が多いようです。
すごい混み方ですね
馬面太夫は女人気がすごいんだよ。
あと、若手の役者の限助。みんなこれ目当て
富本節は、歌舞伎の出語りとして一世を風靡しているといいます。
出語りとは、浄瑠璃の太夫と三味線弾きが舞台上に出て、観客に姿を見せて演奏することです。
ちなみに若手役者の門之助は二代目市川門之助、歌舞伎役者の名跡です。
あの、富本ってなぁ、どこがそんなにいいんですか?
富本は艶っぽくてねぇ
と次郎兵衛。
色っぽくてねぇ。ま、聞けばわかるよ
りつもうっとりして言います。
拍子木が打たれ、幕が開きます。
舞台上の席に、裃姿の太夫と三味線弾きが座っています。
あれが馬面太夫ね。分かる?
ほんとに馬だ
しかも前の名は牛助ってんだよ。出来すぎだよね
馬面太夫の本名は富本午之助というが、面長な顔立ちからそう呼ばれているらしいのです。
ちょっと滑稽な印象を持った蔦重だったが、午之助が声を発した瞬間、衝撃が脳天を突き抜けました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:大人気の午之助
ほんとにいきなり頼むのかい
張りきって出待ちの列に並んでいる蔦重に、次郎兵衛が少々気後れしたように聞きます。
ありゃもう、なんとしても来てもらわなきゃなんねぇですよ
心を一瞬にして奪われる、類まれな午之助の美声。
そして濃艶でありながら品格のある語りに、蔦重はすっかり魅せられてしまったのであります。
その時、「きゃあああああああ!」と黄色い歓声が沸き起こります。
午之助様ー!こっち見てー!こっちー!!!
蔦重と次郎兵衛はあ然としました。
若い娘を押しのけて叫んでいるのはりつです。
裏口から現れた午之助は長身に黒い長羽織をはためかせ、圧倒的風格を漂わせています。
はぁ、ありや男も惚れるねぇ
次郎兵衛が話しかけると、今の今まで隣にいた蔦重の姿がありません。
蔦重は杖をつきつつ人波をかき分け、午之助に接触を試みていました。
太夫太夫!すいません。すいません!少しお話が!
あと少しというところで太った女に押されてすっ転ぶ。
が、そのおかげで運よく午之助の前に転がり出ました。
気づいた午之助が歩みを止め、粋な身のこなしで蔦重に手を差し出します。
「おう、でえじないか?」
午之助が薄く微笑むや、周囲から再び「きゃあああああああ!」と耳をつんざく甲高い声。
凄まじい人気です。
蔦重はたじたじとなりつつも、花形太夫の手を借りて立ち上がりました。
ありがとうございやす。
あの、私、吉原の本屋、蔦屋重三郎と申しまして。
実は太夫に吉原の祭りにおいでいただきたく
「悪いが、俺や吉原は好かねぇんだよ」
さっきまでの魅力的な微笑はどこへやら、午之助は苦々しい渋面になりました。
……え、どうして
ご当人に聞くんじゃねぇよ、べらぼうめ!
振り向くと、取り巻きの後方から鱗形屋がせかせかとやってきました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:鱗形屋登場
相変わらず無礼だな、てめぇは。
ささ、太夫、参りましょう!
ひっつき虫のオナモミの実よろしく午之助にへばりついて去っていきます。
取り巻きたちも去り、ぽつんと取り残された蔦重に、次郎兵衛とりつがと寄ってきます。
大事ないかい?
けど、なんで鱗形屋が
次郎兵衛も首を傾げています。
正本でもやるのかね
とりつ。
正本って。もう出してるとこ、いっぱいありましたよね
先ほどの絵草紙屋の店先には、浄瑠璃の正本がずらっと並んでいたではないですか。
けど、富本は確か、『直伝』本はないんだよ
蔦重はハッとしました。
鱗形屋のような鼻の利く本屋が、それを見逃すはずがありません。
そういや、馬面太夫はもうすぐ二代目「富本豊前太夫」を襲名するって話ありますね
あ、それだ!襲名を機に『直伝』本を出すつもりなんだよ!
話している二人をよそに、蔦重はすでに自分の世界に入り込み、「吉原」「耕書堂」の名が表紙に入った富本の「直伝」正本を頭に思い描いていました。
芝居町のものを吉原の本屋が出すというので話題沸騰、蔦屋は江戸じゅうの粋な男女が詰めかけて大賑わい。
店の軒先には富本正本をはじめ、さまざまな絵や地本の類がずらり揃っています。
「吉原ってなぁ今、脂白えことになってきてんだよ。江戸の流行りを知りたきゃあ蔦屋の軒先をのぞいてみな、耕書堂に聞いてみなって」
そんな話が聞こえてきて、書肆の主人となった蔦重はおもむろに振り返るのでした。
お呼びですかい、旦那
妄想と現実がごっちゃになって口に出し、りつと次郎兵衛に怪訝な顔をされます。
あ、どうしましょう。
吉原嫌われてるみてえですけど
慌てて取り繕っていると、次郎兵衛が
重三!脚
と指さしました。
富本の「直伝」正本のことで頭がいっぱいになって、蔦重はいつの間にか杖なしで立っていたのです。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:流れた襲名
一方、鱗形屋は深川の高級料理茶屋で芸者をあげ、午之助たちを接待していました。
襲名のお話がお流れになって
「あぁ、ほかの流派の奴らがまた横槍入れてきやがってよ」
鱗形屋と話しているのは、富本節の三味線方・名見崎徳治。
以前、蔦重が芝居町で鱗形屋といるところを見かけたのも、この名見崎です。
午之助の周りには女たちが群がって、下にも置かない歓待ぶりです。
これで何度目にございますか
当てが外れた鱗形屋は落胆のため息をつきます。
「太夫の人気が鰻上りだからよ。なんとしてもここで潰してえのよ。初代さえ生きてりゃなぁ」
つられたように名見崎もため息をつきます。
初代は太夫が十一の時にお亡くなりになっちまったんでしたっけ
「そうよ。だから富本の火を消さねぇように、俺らがちっちええ太夫に教えてよ。太夫も精進して精進して、ようやっとここまで来たってのに」
名見崎は悔しそうにくっと酒を呷り、鱗形屋に言いました。
「もっぺん根回ししてみっからよ。鱗の旦那、悪いがもうしばし待っててくんな」
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:りつの閃き
困った時の源内頼み、蔦重は新之助の長屋にやってきました。
源内は、新之助が握っている鎖につながった木箱の把手を熱心に回しています。
蔦重は何をやっているのかと評しみつつ、新之助に事情を説明しました。
要するに、その吉原嫌いの太夫に吉原の祭りに出てもらいたい。
そのために源内さんに間を取りもってほしいと
へえ、そのとおりで
源内が「新之助」と声をかけ、新之助は「ごめん」と蔦重の月代に手を触れました。
火、出ねえか
残念ながら
この機械はかの有名な「エレキテル」。
摩擦を利用して静電気を起こす装置で、当時西洋では治療や見世物に用いられていました。
源内が寄ってきて
こんにゃろう、なんで出ねぇんだよ
と蔦重の頭を叩きます。
源内は、破損しているオランダ製のそれを修理して復元しようとしているのです。
俺から火花が出るわけねぇじゃねぇですか!
出るんだよ!出たら悪いとこが治っちまう!
病が治っちまう!
こりゃ、そういうとんでもねぇシロモンなんだよ!
蔦重の頭をポコポコ叩きながらわめき散らします。
なんの機械だか、蔦重には奇才のやることはサッパリ分かりません。
じゃあ俺の頭は悪くねぇってことなんじゃねぇですか?
そういうことじゃねぇんだよ!
源内はふと気づいたように、自分の手をじっと見つめました。
汗。水、水か?
急いで木箱に取って返して蓋を開け、舌を上唇にくっつけて中の装置の点検に没頭しています。
舌を上唇にくっつけるのは、熱中した時のくせのようです。
ああなってはもう話は難しい。あとで私から伝えておこう
新之助は言い、蔦重に頭を下げました。
蔦重。その節はまことに
いいんですいいんです。お元気そうでよかったです
うつせみの身代金を貯めようと思ってな。
三百は無理にせよ、
それなりに工面し正面から談判しょうかと考えておる。
ま、道は遠そうだが一歩ずつな
どこまでも律儀な男です。
蔦重は新之助の思いを心の中で受け止めました。
ところで、うつせみは?息災にしておるか?
当然ながら、新之助は吉原には永遠に出禁とされています。
あ、近頃は和算書なんかを借りてくれるようになりましたよ。
いつか吉原を出られた時、身を売る術しか知らぬでは困るからって
……そうか
嬉しそうな新之助を見て、蔦重も少しばかり気持ちが楽になったのでありました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:馬面太夫の吉原嫌いのわけ
鳥屋に戻ってくると、りつが来ていて、次郎兵衛と話をしていました。
分かったぞ。重三、馬面太夫の吉原嫌いのわけが
馬面太夫がまだ売れていない頃、同じようにまだ売れてなかった門之助と一緒に素性をつって吉原に遊びにきたことがありました。
二人があがった見世はなんと若木屋で、そこにたまたま門之助の顔を知っている客がいたのです。
「嘘ついて上がり込みやがって!役者なんぞに上がられたらウチの畳が総とっかえにならあ!二度と大門くぐんじゃねぇぞ! 稲荷町が!」
稲荷町とは下っ端の役者や大根役者のことです。
雨の中、二人は怒った若木屋の親父から裸で表に放り出されたというのです。
出入りを禁じられてるのは役者だけでしょ。なんで太夫まで
首をひねる次郎兵衛にりつがいいます。
ろくに確かめもしなかったんだろ
でも、常ならそこまでしませんよね。役者のもぐりなんてよくある話だし
気づいた客が野暮だったのさ。
俺の女を役者に抱かしてんのかって言いだして。
門之助は良い男だからね。男の嫉妬ってやつさ
しかし、なぜ役者が吉原への出入りを禁じられているのか、蔦重には分かりません。
そりゃ、役者は分としては四民の外、世間様の外だからだろ
次郎兵衛はそう言うけれど、今は能役者だって土分の者がいます。
浄瑠璃の太夫もそうです。
なんで役者だけがいまだに
ほっとくと、皆、憧れられちゃうからさ
と、りつが解説します。
売れりゃあ騒がれるし、千両の給金だって夢じゃない。
けど、皆が役者を目指したりなんかしちゃあ、まともに働く奴なんかいなくなっちまうじゃないか。
そうならないよう、役者は四民の外の分ですよってしたのさ。
だから吉原へは立ち入れない。
絹は着るな、笠かぶれ、決まったとこにしか住んじゃならない。
どれだけ煌びやかでも、まっとうに働いてるモンがしょせん『世間様の外』って吐き捨てられるようにしてるってことさ
……お上の都合ってことですか
ひん割きゃみんな竿は一本、穴は一つなのにさ。
これは違う、あそこは別って、垣根作って回ってさ、ご苦労な話だよ
肝の据わった女大夫はサバサバと言い放ちます。
……あ。で、どうします。
若木屋さんが発端じゃ、頭下げてなんてくれませんよね
そうだよねぇ
そこに大文字屋が慌てふためいて駆け込んできました。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:大文字屋のひらめき
あのよ、馬面太夫を呼ぶいい手、思いついたのよ!
あのな、浄瑠璃の元締めってなぁ、当道座だろ
そりゃつまり検校ってことなのよ!
当道座はもともとは男性盲人の職能集団の自治組織で、鍼灸や按摩、金貸しといった稼業と、箏曲や三味線、浄瑠璃、胡弓などの音曲芸能を独占的に支配していたのです。
蔦重は嫌々ながら、しょうことなしに大文字屋と鳥山検校の屋敷にやってきたのでした。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:鳥山の屋敷
……親父様。やっぱりよしときませんか?
瀬川に
俺ぁその夢を見続けるよ
などと言った手前、のこのこやってきて頭を下げるなどカッコがつかないではないですか。
あ?ここまで来てなに言ってんだ、お前
こんなの花魁も迷惑なんじゃねぇですかね
通された座敷で揉めていると、「重三」と声がしました。
瀬川です。
髪はすっきりした丸齢になり、吉原を出てまだ半年足らずだが心なしふっくらして、市井の美しい御内儀といった風情です。
見違えるようで、蔦重はしばし見惚れてしまいました。
蔦重が心配したようなことはなく、妻として迎えられたので女中や下男が家事全般をやってくれるようです。
幸せそうな瀬川の姿を目の当たりにして、引きずっていた後悔が少し薄れた気がしました。
検校は出かけているとかで、先に事情を話すと、瀬川は涙を流して笑い転げました。
あんた富本知らなかったのかい!
気づかねぇくれえ忙しかったんだよ
ブスッとして言い返します。
あんたちゃんと耳掃除してんのかい?よくかっぽじれるヤツ送ったげようか?
お前こそ聞こえてんのかよ!テメェで使いやがれ
こうして言い合っていると、昔に戻ったような錯覚を起こしてしまいます。
ずいぶんと楽しそうだな、お瀬以
いつの間に帰ってきたのか、検校が廊下に立っていました。
……お瀬以
耳慣れないその名前が、ぽろりと蔦重の口をついて出てしまいます。
検校はやや不快そうに眉を寄せました。
もう花魁瀬川ではない。私の妻だからな。
……そのほうらは
これはご無礼を!手前は吉原の女郎屋の大文字屋と申します!
本屋をやっております蔦屋重三郎と申します
太夫への土産に、当道座の「襲名」の許しを持っていきたいー大文字屋の願い虚しく、検校は首を横に振りました。
叶えてやりたいところだが、あいにく当道座には他流の三味線が多くてな
そこをなんとか!
富本は力もなく立場も弱く!なんとか鳥山様のお力で!
大文字屋が懇願するも、検校の様子を見るかぎり色よい返事はもらえそうにありません。
あの、鳥山様は馬面太夫の声をお聞きになったことがございますか?
いや
ならば見込みがあるのではないか!
私も先日初めて聞いたのですが、いや、あの声は世の宝にございますよ!ぜひ一度お聞きになってくださいませんか?
旦那様、私も聞きとうございます。今度共に参りませぬか?
瀬川改め瀬以が蔦重を後押ししてくれます。
しかし検校は、それにも機嫌を損ねたようです。
……人が多すぎるところは苦手でな。
耳が音を拾いすぎるのだ。
そなたがそれでも行けと言うなら行くが
言い方に棘があった。瀬以は明らかに困惑しています。
いやぁ!ごめんごめんとひょっとこお面!
俺が考えなしでございました!
どうかお忘れくだせえ。新造様も気まずい思いさせてすまなかった。
んじゃ失礼しましょう
蔦重は抵抗する大文字屋をホイホイ追い立て、検校に礼を言って座敷を出ていきました。
見送りに立とうとした瀬以の手首を、行かせまいとするように検校が掴みます。
ずいぶんとそなたに優しい男だな
門前まで聞こえてきた、瀬以の屈託のない笑い声。
妻をあんなふうに笑わせる男に、検校はかって抱いたことのない嫉妬という感情を覚えていたのでした。
…あぁ、重三は女郎にはみな優しいので
瀬以はできるだけ自然に聞こえるように言いましたが、検校は
脈が早い
と見えぬ目で瀬以の心を見透かそうとします。
…そりゃあ旦那様にこのように触れられては
手首からそっと検校の手をほどき、自分の頬に当てます。
果たして検校をごまかせたかどうか…
瀬以には自言がありませんでした。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:ナイスかをり!
あんなとこで引いちまってよ。粘りが足りねぇったら
大文字屋の内証で、カボチャ親父が蔦重にぐちぐちと文句を垂れます。
花魁も困ってたじゃねぇですか。
ただでさえ手前勝手な頼みだし
どうすんだよ。もう土産なしで行くか?色っぺぇのでも連れて
その時、蔦重の背中に柔らかいものがペッタリとくっついてきました。
「かをりも連れてってくださんし。主さんとなら、たとえ火の中水の中、道行の果ては極楽浄土」
お、お前!
大文字屋が目をむきます。
違います!違いますよ!
おい、かをり、離れろ!離せって
いつの間にか蔦重のかたわらに立った遣り手の志げが、「ぶつよ!」と仕置き棒を振り上げました。
むろん蔦重に向かってです。
かをりがパッと蔦重の背中から離れます。
そうやりや離れんのか。ったく芝居じみたこと言いやがってよ
「お座敷で師匠方があれこれやるのを覚えちまって」
大文字屋と志げが話している横で、かをりはめげずによよと袖で涙を拭うまねをします。
「そう、けんどわっちは籠の鳥。まことの芝居など見たことありんせん。主さん、いつかわっちの手を取り芝居町へ」
突然、蔦重がかをりの手を取りました。
かをりを見つめるその目は真剣です。
まさか蔦重もほだされちまったか……大文字屋と志げが戸惑っていると、蔦重は言いました。
かをり!……それだ!
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:午之助の感動
とある料理茶屋。
午之助と門之助は、店の者に案内されて廊下を歩いていました。
「前に吉原で追い出されたことあったでしょう。あん時の女郎が身請けされて。
で、一目会いてえって、一緒だった兄いもぜひにって」
話しながら門之助が文を見せます。
身請け先は酒屋と書いてありました。
「うまいこといきゃ、このまま御贔屓になってくれるかもしんねぇですよ」
「どうぞ、こちらにございます」
店の者が座敷の襖を開くと同時に、午之助の目が大きく見開かれました。
師匠方、お待ち申し上げておりました
いつぞやの吉原の本屋、蔦屋重三郎とその仲間と思しき男女が一斉に平伏しています。
「図られた、帰りましょう」
門之助に言い、踵を返しかけた午之助に、りつが
その節は申し訳ございませんでした!
と声を張りました。
あれは差配の手落ち。同じ女郎屋として恥ずかしく思っております。
御無礼、心よりお詫び申し上げます
と畳に額を擦りつけます。
「あんたが悪いわけじゃねぇだろ」
そう言って帰ろうとした午之助を
お待ちください!
と今度は蔦重が引き止めます。
身請けうんぬんはつりにございますが、太夫と門之助様に会いたがっております者がおるのはまことにございます。
どうぞ会ってやってはくださいませんでしょうか
間髪をいれず大文字屋が続きの間の複を開きます。
午之助と門之助は息を呑みます。
そこはまるで百花線乱たる桃源郷着飾った花魁や振袖新造たちが、ずらりと並んで頭を下げているではないか!
ぜひお二方にお会いしたい、詫びも含めもてなしたいと手を挙げた者を連れてまいりました
さぁさぁ、水も滴るいい男が二人。みな思う存分もてなすぞ!
大文字屋が景気よく手を叩きます。
女郎たちは一斉に顔を上げ、「あい!」と艶やかに微笑みました。
大輪の花、可憐な花、清な花、さまざまな花々が一時に咲き誇ったようです。
まさに千紫万紅の眺め、これに抗える男は江戸、いや日の本じゅうを探してもいないでしょう。
ではこのへんでお開き!
宴もたけなわとなった頃、大文字屋が大きく手を打ちました。
「えー!もう一刻!一刻だけ!」
午之助を質問攻めにしていたかをりがごねます。
夜見世もあるし、さすがにダメさ。ほかの妓に示しがつかないよ
りつに論され、女郎たちはがっかりして諦めの声を漏らしました。
あの、太夫、最後に一つだけお願いがあるのですが…
鳥重が切りだします。
実はここからが本当の目的です。
ほんの少しで良いので、女郎たちに富本をお聞かせいただくことはできませんか?
女郎たちは期待に満ちた眼差しを午之助に向けています。
観客に応えたいという衝動は芸人の本能なのです。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:女郎たちの涙
「……良いか?」
午之助が門之助を振り向いて聞きます。
「あたぼうよ。やらいでか」
素人芸でよろしければと、三味線はりつと大文字屋が引き受けました。
「では二上がりを頼む」
午之助が語り、門之助が舞います。
女郎たちが歓喜の悲鳴をあげたのは言うまでもないことです。
午之助の美声と門之助の見事な所作があいまって、二人が紡ぎ出す物語に女郎たちは瞬く間に引き込まれていきました。
語り終わった午之助の耳に、ぐずぐずと鼻を啜る音が聞こえてきます。
女郎たちを見渡した午之助は言葉を失くしました。
あの聞きたがりの振袖新造は心打たれた様子で涙を流しています。
声をあげて号泣している者、「ありがたい」と午之助を拝んでいる者もいます。
こんな座興でとオロオロする門之助に、蔦重は言いました。
慣れてねぇんです。吉原の女郎は芝居を見にいけねぇもんで
午之助と門之助がエッ……という顔になりました。
座敷芸で芝居や浄瑠璃に親しむもんの、幼い頃より廊で育ち外出を許されぬ女郎たちは、まことの芝居は見たことない者がほとんど。
この江戸にいながら一度も芝居を見ず、この世に別れを告げる者もおります
蔦重の話に耳を傾けながら、午之助の日はずっと女郎たちに注がれています。
吉原には太夫のお声を聞きたい女郎が千も二千もおります。
救われる女がおります。どうか!
女郎たちのためにも、祭りの場でその声を響かせては……
午之助が蔦重の言葉尻を食いました。
「やろうじゃねえかい。こんな涙見せられて、断れる男がどこにいんだよ!なぁ!」
むろん門之助に否はありません。
女郎たちは手を取り合って喜んでいます。
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:鳥山からの文
そこに留四郎が駆け込んできました。
検校から使いがきたと蔦重に文を差し出します。
慌てて文を開くと、思いもよらず嬉しい知らせが書いてありました。
太夫。お目通しいただけますか?
午之助に文を渡します。
「……これは!」
「検校率いる当道座は太夫の『豊前太夫』襲名を認めると!」
どういう心境の変化か、検校は馬面太夫の浄瑠璃に足を運んでくれたらしいのです。
「お前がかけ合ってくれたのか」
私です!
すかさず手を挙げた大文字屋を無視して、蔦重は言いました。
文には検校は太夫のお声を聞き、決められたとあります。
かけ合ったのは、太夫ご自身のお声にございますかと
「……そうか」
午之助が嬉しそうに笑います。
太夫にとって、それ以上の名誉はありません。
……太夫、あの、もう一つ
蔦重は午之助の様子を見つつ、思いきって切り出しました。
もう一つ願いがございます。
太夫の『直伝』を私にいただけませんでしょうか!
べらぼう11話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:棚ぼたの鱗形屋
鱗形屋が芝居小屋でいらいらしながら待っていると、ようやく午之助が現れました。
太夫太夫!富本のためにもどうかお考え直しを!
耕書堂は市中の本屋と静いを起こしております。
あやつに任せれば市中には売り広めできなくなるのですよ!
「らしいねぇ。だったら、なおさらあいつを助けてやりてえじゃない。それが男ってもんだろ?」
まるで交渉の余地なしです。
鱗形屋が浮かぬ顔で店に戻ってくると、おっとりした風情の武士が万次郎に化物の絵を描いてやっています。
駿河小島藩の留守居役、倉橋格です。
倉橋様。申し訳ございませぬ。
子守りなどさせてしまい。……今日は何用で
「少し迷っているところがあってな、そなたと相談したく」
と持ってきた原稿を取り出します。
鱗形屋は、その原稿をじっと見つめました。
「いかがした」
いや、へへ。ロクにお礼もできぬのに、
ウチで書いてくださって、ありがた山で
「当家の家老はそなたにまことにひどいことをした。それを忘れるなど、男のすることではない」
男気によって捨てられ、男気によって救われる。
鱗形屋は、笑っていいのか泣いていいのか分かりません。
…へへ。すいやせん……すいやせん
「これより、蔦重は富本正本、鱗形屋は青本に、それぞれ注力していくことになるのです。
その陰で、のちに歴史を動かすことになる出来事が起こっていました…。
べらぼう次回放送
次回のべらぼうネタバレ第12話はこちら
【べらぼう12話】ネタバレとあらすじを吹き出しで解説!3月23日放送(2025年大河)
べらぼうのネタバレとあらすじ:一覧
2025年3月
【べらぼう 3月】あらすじ一覧
第9話 3/2(日) 玉菊燈籠恋の地獄
第10話 3/9(日) 「青楼美人」の見る夢は
第11話 3/16(日) 富本、仁義の馬面
第12話 3/23(日) 俄なる「明月余情」
第13話 3/30(日)わっちの光(仮)
2025年4月
【べらぼう 4月】あらすじ一覧
第14話 4/6 (日) 瀬川との別れ(仮)
第15話 4/13(日) 手袋に仕込まれた毒(仮)
第16話 4/20(日) 源内の死(仮)
第17話 4/27(日)
べらぼう11話:筆者の見解
放送後に記載いたします~!
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