2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」の第23話(6月8日放送)ネタバレ&あらすじを読みやすい吹き出し形式で記載します!

んふ……♪
べらぼう全話を吹き出し形式で読みやすくご紹介しています!

べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:カボチャまで取り込んで

お前、なんで『抜荷』のことなんて聞いてきたんだ!
蔦重は朝を待ちかねたように大文字屋へ飛んでいき、誰袖を問い詰めた。

んふ。手すさびに青本を

何やってんだ、田…裏助と!

ここでやることなんて一つしかありんせんよ

…分かった。カボチャに言う
脅しをかけたところへ、当の大文字屋が紙を手にヒョイヒョイと足取り軽くやってきた。
花魁。ちょいと『ぬクけケにキ』のカラクリ考えてみたんだがよ

まあ、おとさん、さすが

『ぬクけケにき』。…ぬけに! まさかお前!
誰袖がニヤリとする。
この挟み言葉は、春町の『金々先生』や喜三二の『見徳一炊夢』にも出てきた唐言と言われるもの。
深川の色里から始まったと言われており、カ行の同じ段の音を挟み、当事者にしか分からないように作られた一種の隠語だ。

もうカボチャさんまで取り込んで
呆れていると、二人は蔦重に背を向けて不穏な相談を始めた。

お二人さん、呑気に「ぬクけケにキ」なんて言ってる場合じゃねぇですぜ。こりや相当きなくせえ話で.....。下手すりゃ血が流れることだって!
うっせえな!どんだけうまい話だと思ってんだよ!

お、親父様?
花魁があのお方に身請けされりゃおメェ、どんだけ金入ってどんだけ名が上がるか!こんなうまい話逃せるかってんだよ!
まるで先代の大文字屋が戻ってきたかのよう。
が、またすぐ二代目の仏顔に戻って誰袖とコソコソと話しだす。
女郎も女郎なら、親父も親父である。

俺や言いましたからね…、どうなっても知りませんぜ!
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:絵図の印

はいよ。皿方赤良編「成載狂歌集』、百部
須原屋市兵衛が、蔦重の前に本を積み上げて言った。

ありがた山にございます
この『万載狂歌集』という題名は『千載和歌集』をもじったもので、江戸狂歌の先達・唐衣橘洲が編纂した古典的な「狂歌若葉集』に対し、南畝が大胆奇抜に編集したものである。
かつては同門の天明狂歌界の両雄が歌集で火花を散らしたというわけだ。

こりや横流し、『抜荷』みてえなもんだからよ。
くれぐれも店先ではさばくなよ
奥の間に通されたのも、それが理由である。
この狂歌集は須原屋一統の中の須原屋伊八が出したもので、市中の本屋と取り引きできない蔦重のために、市兵衛が仕入れてやったのだ。

…あの、蝦夷地ってあるじゃねぇですか

いきなりなんだい

いや、青本のネタを考えてて。どんなとこかなぁって

時はあるかい?
須原屋は立ち上がりながら尋ね、珍品が所狭しと飾られている部屋の中をガサガサやり始めた。

これ須原屋さんが集めたんですか?

おお、触ってもいいけど壊すなよ。…あったあった
須原屋がウキウキしながら持ってきたのは、詳しい蝦夷の絵図である。

北の果てにある土地で、ここに松前家ってのがあって、この辺りが蝦夷地だな

蝦夷地ってなぁ、松前ってとこの領地なんですか

そうそう!んでよ、こっから先はオロシャ。すぐ異国なんだぜ。どんなだか見てみてぇよなあ。オロシャの本も入れてみてぇし
まるで好奇心旺盛な少年のように胸躍らせている。

須原屋さんは新しもん好きですもんねぇ
微笑んで絵図を見ているうち、蔦重はふと気づいた。
絵図には印がついていて、見慣れない地名や航路、潮の流れなどが書き込まれている。

この印ってなんです?

これか?これはな
耳打ちされた内容に、蔦重の心臓は縮み上がった。

誰にも言うんじゃねえぞ
蔦重はゴクリと喉を鳴らし、小さく首を縦に振った。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:風雲児
天明三(一七八三)年。幕臣・大田直次郎、またの名を大田南畝、狂名・四方赤良の『万載狂歌集』が大当たりし、大ブレイクした。
高き名のひびきは四方にわき出て赤良赤良と子供まで知る
狂歌の会には老いも若きも男も女も詰めかけて、子供までもがサインを求めるほど。
その勢いに乗って、ついでに蔦重も大ブレイク。
どこに行っても噂の的、耕書堂では「浜のきさご」はじめ、北尾政美が挿絵をつけた赤良の青本『寿塩際卿礼」、春町の『影態費学素」に喜三二の『長生見度記』、奈蒔野馬平人(志水燕十)作・忍岡歌麿画の『座多雁取帳』、そして北尾政演の錦絵『青楼名君自筆集』も高い評価を得て飛ぶように売れた。
今風に言えば蔦屋は江戸で一番「イケてる」本屋、蔦重は江戸一の目利き「利者」と言われるようになったのである。
そんなある日、耕書堂に駿河屋の親父とりつが揃って顔を出した。

重三は戻ってないかい?ちょいと話があんだけど

なんだお前も今日こっちか
駿河屋が女房のふじに顔をしかめてみせる。
蔦重が引っ張りだこなので耕書堂は火事場騒ぎのような忙しさ。
松葉屋の女将のいねも店を手伝いにきていて、蔦重の予定を二人に教える。

今日は太夫の贔屓筋と相撲見物、そのあと富本本の打ち合わせ、土山様の宴席だっけ

売れっ子の呼出並みだね
ため息を漏らすりつに、ふじは

風雲児ってやつ
と少し自慢げだ。
それがまた面白くない駿河屋は、ムスッとして言った。

吉原におんぶに抱っこで何が風雲児だ
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:コネ作りに必死
さて、こちらは本物の風雲児、いや風雲爺様。
今や老中・田沼意次は要職を田沼派で固め終え、息子を特例で奏者番に抜擢するなどの無及ぶりを見せつけていた。
一方、その波に乗り損ねた武士たちはというとし。
願わくば田沼様とは思へどもせめてなりたや公方様には

さすがに公方様はやりすぎだろ
『浜のきさご』を手に、書院番仲間に狂歌指導をしている長谷川平蔵もその一人。
「死の手袋」騒動以来お呼びがなくなり、今も西の丸で進勤番の日々。
あと一歩というところで出世の階段を上れずにいる。
そこで狂歌を嗜み、田沼派の勘定組頭・土山宗次郎にコネを作りにいこうと計画を立てたのだ。
そこへ、平蔵たちと同じ番方に属する新番士の佐野政言が、

そなたら何をやっておるのだ?
と寄ってきた。
いつぞや、意次あてに巻物の系図を献上してきた、あの旗本の息子である。
土山が牛込細工町に建てた酔用機という豪邸では、連日連夜大尽遊びが繰り広げられていた。
南畝ら文人だけでなく、富裕層の商人たち、その妻や安などが飲んだり食べたり、狂歌に興じたり。中国風の出で立ちの者などもいて、当時の最先端を行く通人たちが集まっている。

こ、これは三百五十俵の組頭の屋敷ではなかろう
平蔵と一緒にやってきた佐野、同僚の横山と縦川は眼前に広がる宴の様子に度肝を抜かれた。

田沼様の覚えがめでたければ、三百五十俵でもこういうこともできるということよ
しかし、土山と南畝の周りには人だかりができていて、とても近づけそうにない。
何か伝手はないかと、平蔵は庭に集っている人々を見渡した。

む!あれは!
人だかりから離れたところに、どこぞの金持ちそうなご隠居と談笑している蔦重を見つけた。

蔦重!蔦重!
名前を呼びながらドカドカ駆けていく。

お前やりやがって!使っておるぞこれ!
と『浜のきさご』を見せる。

ありがた山にございます!長谷川様こそお元気そうで
蔦重と話している平蔵の後方から、人をかき分けて佐野たちがやってきた。

あのよ、あいつらに土山殿と見知りを作ってやりてえんだがよ

あー。あ、じゃ裏から行きますか。和泉屋さん、また
蔦重は人だかりとは別の道筋で四人を案内し、あれよという間に土山と南敵の背後についた。

おお!どこにおったのだ!蔦唐丸!
南畝の声に、「蔦唐丸?」「蔦屋の?」「江戸一の利者」などと周囲が一斉にぎわつく。
江戸一の『利者』は三百五十俵の勘定組頭などもはや後回しか
と土山がからかう。
皆が蔦重と知り合いになりたがり、一歩歩くごとに誰かに捕まってしまうのだ。

んなわけねぇじゃねぇですか。意地悪言わねぇでくだせえよ
土山は笑い、「その者らは」と平蔵たちに目をやった。

あ、長谷川平蔵様と

本丸で番士をやっております、佐野…
佐野が自ら名乗っている最中であるのに、長谷川と聞いた南畝が思わず

かの高名な火付盗賊故方のご子息の!
と遭った。

確か吉原で極めて豪気な振る舞いをなさった

いやぁ、若気の至りでござる!
気をよくした平蔵が豪快に笑う。

狂歌はなさらぬのか?

これから始めようと。ひとつ、赤良先生に、大いにモテそうな名をお願いしたく!

では、稀代のモテ男在原業平にちなみ、『あり金はなき平』で
平蔵はフッと笑った。

金はなくともモテると
とことん前向きな男なのである。
横山と縦川が「我も我も」と手を挙げるが、機を逸した佐野は一人だけ所在なさそうにしている。
気づいた蔦重が、

あ、どうぞどうぞ、おそばに
と勧めるも、

よい。やはり拙者はかような場は慣れぬし
とすっかり腰が引けている様子。

そんなことおっしゃらず

親の具合もようないので、長居もできぬしな。では
蔦重がなんとなく気になって佐野を見送っていると、その耳元に土山が話しかけてきた。
お前、雲助様の誘いを断ったそうじゃないか
どきりと蔦重の心臓が跳ねる。
この話の先にはあらゆる儲け話が転がっておる。一枚噛んでおけば、いずれは蝦夷地の本屋商いを取り仕切るなどということもできように

…いやあ、吉原のしがない本屋にやあ話が大きすぎまさね
買ってやろうか、店

は?
日本橋などにでも。そのほうが赤良の本ももっと売れようし
江戸を代表する本屋のほとんどが、商業と文化の中心である日本橋に店を構えているのだ。
蔦重は土山の顔をまじまじと見つめた。
今度はからかっているようには見えない。

ほ、本気でおっしゃってます?
つい食指が動いてしまう蔦重であった。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:日本橋に二軒目?

今日よお、土山様がよお、日本橋に店出したらどうかって
帰宅した蔦重は酔い覚ましに煙管をふかしつつ、在庫の整理をしている歌麿に言った。

近頃、みんなにそれ言われてんでしょ
歌麿は本気にしない。

けど、土山様は金出してくれるってんだよ。毎年自分に運上納めてくれればいいって

それ間違いなく得するのは土山様だけだよ

そーかなぁ

蔦重は吉原にいるからちょいとカッコよしなんだよ
どういう意味だ?というように蔦重が小首を傾げる。

江戸一の利者が江戸のはずれの吉原にいる。それが粋に見えんだよ
だが本屋にとっての本丸、「日本橋」に手が届くかもしれないと思うと欲が出る。

んじゃここはそのままに日本橋に二店目ってな、どう?
歌麿はもう相手にせず、

親父様が蔦重に話があるみてえだよ
と伝える。

…もしかして、親父様も俺に日本橋にって
重症だ。歌麿は

だといいけどねぇ
と生返事を返した。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:吉原のおかげ
翌日、駿河屋とりつの呼び出しに応じた蔦重は、謎の書き付けを渡された。

なんですか。これは
蔦屋お抱えの作者ごとに、たとえば「北尾政演〇〇屋の店の袋××屋のうちわ」というふうに書いてある。

蔦屋の名が上がったもんで、店の引札やら、品を入れる袋やら作ってもらえないかってお馴染み様たちが続々とね。
いいだろ。あんたも儲かるし。吉原のためにもなるし
りつが説明する渡された書き付けは、女郎屋の注文がずらりと書かれた一覧表なのだった。

いや、けど。ウチも忙しいし、皆も暇じゃねぇし、この、赤良先生に孫のお祝いの狂歌集作ってもらいてぇなんてな、いくらなんでも無理でさぁね

お前、近頃、いい気になってやしないか?
ジッと蔦重の様子を見ていた駿河屋が、威嚇するように低い声を出す。

.......俺の?どこがです?

まえだったら、こんな話間違いなく乗り気んなったろ

いや。そう、そうですかねぇ?

勘違いすんじゃねぇぞ。吉原のおかげでお前はここまでんなれてんだ。俺たちが手え引いたらその日に潰れんだからな
この親父様ときたら、口を開けば説教か叱責か…褒めると口が腐る病気かなんかか?

分かりました。やりますよ。やらせてもらいますぜ

なんだその言い方
駿河屋が蔦重の首を摑む前に、りつが二人のあいだにサッと割って入った。

まあまあ、重三も忙しい身だからさ。できるだけでいいからさ。頼むよ
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:誰袖のお座敷での会話
さて、その夜、大文字屋では意知と土山が二人だけで酒を飲んでいた。

蔦重にそんなことを言ったのか
江戸一の利者の本屋は土山のもの、これはなかなかに気分ようございますし。そうなれば自ずと蝦夷の話にも引き込めましょうし

いずれは蝦夷での本屋商いの旨みも懐にということか。あれだけ溜め込んでもまだ足らぬか
私のような小身は金だけが頼りで
その時、隣の誰袖の座敷で声がした。
號珀がたくさん欲しい?
二人はハッとして盃を置き、わずかに隙間を開けておいた隣室との襖に急ぎ身を寄せた。
誰袖の客は松前藩江戸家者の松前廣年。
そこに大文字屋が入ってきたところである。
花魁が身につけておる琉珀があまりにも美しく。いっそウチのに揃いのかんざしなどにしてつけさせてはどうかと。なにとぞ、ご手配いただくことはできませんでしょうか。女郎らが身につけますれば、市中の女子にも流行ります。このあいだご一緒だった住吉屋さん。住吉屋さんにとっても悪いお話ではないかと
聞いてはみるが、暁珀は値も相当に張るぞ。そこは
そこは、ぜひ、できるだけお手柔らかに願えると助かりますな。では
誰袖の座敷を出た大文字屋は、そのまま意知たちの座敷に入ってきて襖に張り付き、二人と共に隣室の会話に耳をそばだてる。

主さん。琉珀というのはなにゆえかように高いのでありんすか?
そりゃあ商人が利を載せるからだな

では、商人を通さず直にオロシャから主さんがお買い付けになることはできぬのでありんすか?そうすれば安く手に入りんしょう?
誰袖が巧みにそそのかす。
意知、土山、大文字屋は固唾を呑んで廣年の返事を待った。
…ならぬ。ならぬ!それでは抜荷となってしまう!異国と勝手に取引をするは法度、下手をすれば、取り潰しじゃ!

けんど、主さんが安く手に入れ親父様に高値で買わせれば、相当な金がお手元に残りんしょう?
差し出口をきくな! 女郎ごときが!
廣年はつい感情的になった。
罵倒された誰袖の大きな目にみるみる涙が溜まっていく。
お、花魁?
廣年は息を呑んだ。
大文字屋が「出た」と囁く。
意知は何が「出た」のか、という顔だ。

わっちは、その金があれば主さんともっとお会いできるかと思いんして
美しい顔をきゅっとゆがめた拍子に、ツツーと涙が頬を伝う。
これ泣くでない。分かった、一つ考えてみるゆえ
女郎の手練手管を知らない弟君は涙一粒で陥落した。
女の武器の圧勝である。
誰袖はバッと廣年に抱きつき、襖の隙間から見ている意知の目を捕えた。

うれしうありんす。主さん。ぜひ、いつの日か身請けを
男を惑わす秘技、魔性の微笑み。
意知は思わずドキリとした。
あれに逆らえる男はおりませぬ
大文字屋の小声に

それほどか?
と返しつつ、誰袖から一寸も目が離せない意知であった。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:日本橋呉服屋の提案
耕書堂では歌麿が請負仕事の絵に取りかかっていた。蔦重は忠五郎と細見改の打ち合わせだ。

忠さんにはこの辺のもろもろ改を、うちの名でお願いしてぇんだけど
いいけどよ、これは?
と指で丸を作ってみせる。

もちろん弾みまさね
しかし、お前さんまだこんな摺物屋の請負仕事やってんのか

吉原から言われっとどうにも
鶴屋さんの向かいの店、空くって噂だぜ
忠五郎が目録を確かめながらサラッと言った。

しえっ!
どうだい、ここらでいっそ吉原出て、日本橋に打って出るってなあ。俺たちみたいな小店の奴がよお、面白えじゃねえか
かつては対立したこともあったが、決して卑屈にならず地本問屋をやり込めていく蔦重に、忠五郎はいつしか快哉を送るようになっていた。

…ちなみにおいくらくれえで
まあ、千両くらいじゃねぇ?
またもサラリと口にする。

そ、そんなに?
いくら勢いに乗っている蔦重とはいえ、おいそれとは手が出ない。
けど、お前さんなら吉原に頼みや貸してもらえんだろ?
…そういう感じでもねぇってえか
とため息をつく。

いっそ日本橋から言ってきてくんねぇかなあ。蔦屋さんは江戸一の利者、タダでいいから日本橋に店を出してくださいって
そんな都合のいいことをダラダラしゃべっていると、りつがやってきた。

重三。日本橋のお偉いさんたちがあんたも一緒に話があるって
蔦重は思わず真顔になった。
まさか…冗談から駒が出た?
駿河屋の二階に居並んだ日本橋のお偉いさんとは呉服屋仲間の重鎮たちで、その口から出てきたのは、冗談みたいな駒であった。

要するにもっと「雛形若菜』が人気となるよう、吉原に町をあげて力を貸せってことですか
蔦重があ然としているので、確認のためりつが復唱する。
駿河屋も同席していた。
今までは各々勝手にしておりましたが、今後、呉服屋仲間としては西村屋さんの『雛形若菜』を第一に盛り上げていきたいとなりまして。こちらの「青名君」はまぁ、その次ということで

…理由をお聞かせ願えますか?
蔦重の目の前には、西村屋の『雛形若菜』と蔦屋の『青楼名君自筆集』が並べて置かれている

つまるところ『雛形若菜』のほうが優れているということですかね
蔦重にとって、ほかのどんなことよりも納得しがたい理由だ。

青機のどこが雛形に劣るってんです?華やかさだって面白さだって負けちゃいねぇ。それにこっちは人銀は吉原!タダで新作を見せられんですよ
絵としては優れておるのでしょうが。さほど売れてないでしょう

いやぁ、市中ではかなり
けど地方、江戸の外はどうです?

え、江戸の外?
言葉を詰まらせていると、りつがすかさず

どうなんだい。そのあたりは
と突っ込んでくる。

往来物のツテがあるとこなんかに頼んだりは
急に歯切れが悪くなった蔦重に、呉服屋の代表は「そうですか」とわずかに冷笑を浮かべ
これが西村屋さんだとまったく違うんです。鶴屋さんや西村屋さんには諸国の本屋から大口の買い付けが来る。ゆえにその品は遠く名古屋や京、大坂、北は仙台、地方の本屋、小間物屋なんかにまで流れるんです。私どもは当然、蔦屋さんの品も同じ流れを持っていると考えておったのですが
駿河屋が蔦重を横目に見てわざとらしくため息をつき、

いつまで経っても脇が甘えな
とポツリ。それ見たことかという顔つきがまた、しゃくに障るのなんの。

重三。これはこれで手伝うってことでいいかい?『青楼名君』をやらないって話じゃなし、江戸の外まで女郎の名が売れるのは吉原にとってもいい話だし
りつがとりなそうとするけれど、蔦重は金輪際西村屋の風下に立つ気はない。

江戸の外まで流れりや、『雛形若菜』じゃなく『青楼』を盛り上げていこうって話になりますか?
具服屋たちに正面切って交渉する。
そりゃそうなれば

見ててくだせぇ!あっという間に日の本じゅうに流れるようにしてみせますから!
蔦重が満面の笑みでうそぶくと、呉服屋たちは顔を見合わせたのち、
…まあ、じゃあ。少しお待ちしますよ
と引き揚げていった。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:意地の張り合い
これに顔色を変えたのは駿河屋とりつである。

お前、お前!なに勝手なこと言ってんだ!

そうだよ。吉原にとっちゃ双方あるほうが

ウチの品をウチが売れるように計らうのは当然じゃねぇですか
以前は同じ土にも上がらせてもらえなかった。だが今は違う。

しゃらくせえ!吉原あっての蔦屋だろうが!

…親父様、近頃は俺に金出してえって人もいんですぜ
駿河屋が憤怒の形相で立ち上がった。
一触即発の状況である。
慌ててりつが止めに入ったところで、「おおお。取り込み中かい?」と扇屋と丁子屋、松葉屋が連れだってやってきた。

いいよ。どうしたんだい?
願ってもない助け舟、りつはあきらかにホッとしている。
あぁ、和泉屋のご隠居が亡くなったらしいんだよ。明日お弔いだってんだけどな
和泉屋の最近の側最屓だった丁子屋が言う。
蔦重は先日、土山の酔月楼で会ったばかりで、にわかには倍じられなかった。

迷うとこだね。私らが出るのは嫌がる人も多いしね
なにせ吉原者は「四民(土農工商)の外」、市中では鬼か蛇のように嫌われている。

けど息子の、今の旦那から見送ってほしいってわざわざ言われてよ。ご隠居はそりゃ吉原が好きだったって

長い間、そりゃいろんなお店に通ってくださったもんねぇ
扇屋とりつがしんみり話している横で、蔦重は和泉屋と最後に交わした会話を思い出していた。
穏やかに笑んで、「お前は?次は日本橋か?」と尻を叩いてくれたっけ…。
松葉屋が蔦重に

お前も行くか。世話になったろ
と声をかけてくれる。
ぜひ、と言おうとしたら、駿河屋が

出てる暇なんてねぇだろ
と横槍を入れてきた。

蔦屋様は世話んなった馴染みより、テメェの品流すほうが大事だろうからよ
どこまでも嫌味な親父である。

…んじゃ、そうさせてもらいまさ
こうなったら意地の張り合いだ。
蔦重はムカムカしながらその場を去った。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:源内先生のためにも

さすがに錦絵を書物で流すのは無理だよ
須原屋は『青楼名君自筆集』を手にして、あきらかな困り顔。

そこをなんとか
蔦重は両手を合わせてグッと頭を下げた。

無理だよ。俺が本店から暖策取り上げられらあね

そこをなんとか!
実はここに来るまえ、西村屋に錦絵の買い付けにきた商人に片っ端から声をかけて『青楼名君』を売り込もうとしたのだが、ことごとく逃げられてしまったのである。

んじゃ、まぁ、せめて本にしてくれよ

…なんかねぇですかねぇ、日の本じゅうに錦絵をどーんと流す手は
須原屋は、ため息をつく蔦重をしばし見つめた。
確かに、蔦重がここまでになったのは吉原のおかげだった部分が大きい。
だが今後は、そのことが身動きできぬほど重い足枷になってしまうこともあるだろう。

お前さん、日本橋に出る気はねぇの?

え?

日本橋に出りや、この絵は一発で方々のお国に出回ることんなるよ

え!どういうことです?

西村屋や鶴屋の品が江戸の外まで流れんのは、突き詰めりや日本橋に店があるからよ
地方の商人は、日本橋に店を出しているなら一流どころ、そこの品だったら間違いないと買っていく、または買ってこいと言われるからだ。

そんな、そんな雑な仕組みだったんですか

そうよ。だから出てくりや、『青楼』の話はあっさり先が見える。それにほかの品だって同じことよ。
狂歌本も青本も富本本も。日本橋に出りや、ほっといたって流れに乗る。しかも、一作につき今までとは桁が違う冊数が出る。
そりゃお前さんにとっても、作者たちにとってもいいことなんじゃないかね

…けど、実のとこ考えたらとても。俺や吉原に借金も山のようにありますし

金なんてどうにでもなるだろ。俺だっていくらかは助けてやるし

吉原怒らせたら、それこそ細見や催事の仕事も一切なくなっちまうし…。細けぇこと考えたら、やっぱり無理でさね

…それでも俺や、日本橋出てほしいけどね。源内さんのためにも
源内の名前が出たとたん、蔦重の表情が変わる。

お前さんはよ、今、江戸で一等面白えもんを作ってるわけだ。それを日の本津々浦々にまで流すことは、この日の本を豊かにすることじゃねぇの?耕書堂って名には、そういう願いが込められてんじゃなかったかい?
蔦重がどこまで行くのか、何をしでかすのか。
新しもの好きの須原屋は楽しみでしょうがなく、ようやく翼を広げた才能ある本屋を、もっともっと広い世界で思いきりばたかせてやりたいのだった。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:吉原もん
地面を叩く雨音も気にならない様子で、蔦重は吉原細見「島町御江戸』に没頭していた。

なんでそんなの見てんだい
本を運びながら歌麿が聞く。

和泉屋様、亡くなっちまったんだってよ

和泉屋様の荷物持ちをしたから、田沼様に会えたんだっけ

あぁ、んで、親父様たちにボコボコにされてよ
道端に晒された木桶の中で、吉原に人を呼ぶ工夫を三日三晩考えた。
それが、細見だった。

そっから、すべてが始まって
女郎を花に見立てた『一日千本」』。
あれで駿河屋は蔦重が本屋になることを認めてくれた。
親父たちが心一つで市中の地本問屋たちに喧嘩を売ってくれたこともあった。
源内と駿河屋、扇屋の四人で『青楼美人合姿鏡』を上様に献上してほしいと田沼老中に頼みにいったこと。
鱗形屋から馬面太夫の「富本本」の権利を勝ち取ったこと。
往来物、そして再会した歌麿それはもう数かぎりなく、この吉原でさまざまなことがあったー。
蔦重が追憶を辿っていると、道のほうから

でえじねぇですか?
と留四郎の声がした。
急いで出てみると、尻餅をついたらしい丁子屋を留四郎が助け起こしているところだ。
へへ。でえじねぇ、どうせ濡れ鼠だったしょ
そばにいる肩屋、松葉屋、りつもみな服姿で、傘をさしているのになぜかびしょ濡れだ。

あの、何かあったんですか?
蔦重は須原屋からの帰り道、四人が和泉屋の屋敷に入っていくのを見かけていた。

ま、いつものさ
と、りつが肩をすくめる。

『吉原もん』とはってやつだよ
扇屋の一言で、だいたいの想像はついた。
参列者は立派な身なりの人たちばかりだったが、四人も周囲と添色ない格好で弔いの席についた。
そこに和泉屋の番頭が来て、申し訳なさそうに席を移ってほしいと言ってきたという。
吉原の方と同じ扱いなら、帰ると仰せのお方がいらっしゃいまして
俺たちゃそこは何度も確かめたぜ!

それでもいいって旦那が言うから来たんだよ
丁子屋とりつは当然の主張をする。
重々承知です。けど、どうか。なんとか
番頭はほとんど泣きそうになっているし、この場で騒ぐのは何より故人に失礼だー。
教養人であり風流人である扇屋はそう考え、

よし、行くぜ
と三人を促して席を立った。
「そういうこと?」
「吉原もん」
などとヒソヒソ噂する声が聞こえる。
雨の中、粗末な着物を着た人たちと庭に座らされた四人は、いずれにしろ悪目立ちしたことだろう。
そんな屈辱を耐えたのは、吉原の親父たちが無粋を嫌い、人の情を知る者たちだからだ。
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:俺だけは隣にいっからさ
蔦重は雨に打たれながら、大門の中に消えていく扇屋たちの背中を見送った。
大文字屋のせいで吉原者が市中に土地が買えなくなったこともあった。
世間の目は何一つ変わっちゃいないし、今後も変わることはないだろう。
心が落ち着かず、蔦重は店に戻って『青楼美人合姿鏡』をめくった。
吉原はついに公に四民の外とされちまった。

夢を現にしたいなら、よけいなものは抱え込んじゃならないと思うのさ…だから、行くね。
懐かしい瀬川の面影が蔦重に諭す。

いいじゃねぇか。蔦重。花魁のために吉原を皆が仰ぎ見るところに変えてやろうぜ!
不思議と元気になるあの笑顔で、源内が背中を押してくる。

行きなよ、蔦重
ハッとして振り返ると、寝支度を済ませた歌麿が微笑んでいた。

何がどう転んだって、俺だけは隣にいっからさ
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:今俺に足りねぇのは日本橋だけ!
翌日、駿河屋の二階に集まった親父たちは、和泉屋の葬儀での不当な扱いについて話していた。

まえよりは女郎や芸者にも気を配ってんだけどねぇ
と松葉屋。
俺や時々言ってやりたくならあね。このままじゃ食えなくて死ぬしかねぇ子を兎にも角にも食わせてんのは誰なんだってよ
一晩たっても丁子屋は腹の虫が治まらない。
扇屋が

まあ、けど身体を売らせるかぎりはってことなんだろうさ
となだめるも、ますます怒りに拍車がかかる。

んじゃテメェらは買う以外そんな子らなんかしてやったことあんのかって!
りつも悔しくて仕方ない様子、いつもと違って無言なのが何よりの証拠だ。
そんなところへ、蔦重がひょっこり顔を出した。

なんだ。錦絵はあっという間に日の本じゅうに流れるようになったの
葬儀の話でクサクサしていた駿河屋が、蔦重の顔を見るなり皮肉る。

いえ。そこも含めてお話よろしいですか
「手短にな」と許しをもらい、蔦重は標を正して一同に向き直った。

皆様にお願いがございます。俺に日本橋に店を出させてくだせぇ!
ガバッと頭を下げる。
に、日本橋って
親父一同、鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。
お前、んなことしたら、吉原の店はどうすんだい
若木屋がようやく言った。

人にまかす、いっそ畳む。やり方はいろいろあると思います。とにかく俺や、日本橋に移りてぇんです

とち狂ってんじゃねぇ。お前は吉原の本屋だろうが!
駿河屋が蔦重の胸ぐらを掴み上げ、奥歯が吹っ飛ぶくらい横の面を殴り飛ばした。
したたか柱にぶつかった蔦重がうめき声をあげる。
松葉屋が

おい、ちょいとやりすぎ…
と口を出したほどだが、怒り狂った駿河屋の耳には届かず、蔦重の首を摑んで廊下を引きずっていく。

テメェの名が上がったらおさらばか!誰のおかげでここまでなれたと思ってんだ!忘八にも程があんだろが!
階段から突き落とされた蔦重が、凄い勢いで一気に下まで転がり落ちた。

べらぼうめ!
蔦重が横たわったままぴくりともしないので、ふじが内証から飛び出してくる。

重三郎。重三郎!
ふじが揺り起こすと、蔦重は痛みに叩きながらもなんとか立ち上がった。

…俺や忘八でさ。けど、親父様。俺ほどの孝行息子も、また、いませんぜ
上に集まった親父たちをまっすぐに見据えて、蔦重が一段一段、階段を上っていく。

江戸のはずれの吉原もんが日本橋のまん真ん中に店張るんですぜ。
そこで商いを切り回しや、もう誰にも蔑まれたりなんかしねぇ。
それどこか見上げられまさね。
吉原ってなぁ親もねぇ子を拾ってあそこまでにしてやんだって。
てえしたもんだ、吉原の門たぁ、丑寅の門は懐が深えもんだって
丑食、すなわち北東の隅にある鬼門、万事に忌み嫌われた吉原が、皆に讃美される場所となる。

俺みてえな奴が成り上がりやあ、その証んなりますぜ、生まれや育ちなんて人の値打ちとは関わりねぇ屁みてえなもんだって、その証にも。
そりゃこの町に育ててもらった拾い子の一等でけぇ恩返しになりやしませんかね
大文字屋、若木屋、丁子屋、松葉屋、扇屋、りつ。
そして駿河屋も黙って話に聞き入っている。

ひとつ、俺に賭けてはもらえませんかね!
階段の一番上まで来て、蔦重は歩みを止めた。
親父たちと正面からにらみ合う格好だ。

…勝ち目は?
ややあって、りつが口を開いた。

しくじったら、しょせん吉原もんはって言われるだけさ。勝ち目はどこにあんだい?

俺には歌がいる。
まあさんも春町先生も、赤良先生も。
重政先生も政演も、太夫も。
三和さん、燕十さん、近頃は政美もいい。
俺の抱えは日の本一に決まってる

そして日の本のどこかで瀬川が、あの世から源内が見守ってくれている。
それだけじゃない、次郎兵衛や半次郎や留四郎、女将や女郎たち、蔦重には大勢の吉原の応援団がついている。

今、ウチに足りねぇのは、俺の日本橋だけでさ!
べらぼう23話のネタバレとあらすじを吹き出しで解説:俺たちの奥の手
やがて桜が咲き誇る頃、日本橋の鶴屋と村田屋の向かいにある本屋・丸屋が売りに出されることが決まった。
巷では、蔦屋の往来物が丸屋の息の根を止めたという話が広まっているという。

岩戸屋さんから聞いたとこじゃ、どうもそのようなんですよ
蔦重は「日本橋蔦屋」に向け、親父たちと作戦会議をしている最中である。
だが松葉屋と丁子屋が言うには、丸屋が傾くきっかけになったのは、一人娘の元婚が扇屋の花肩に入れあげて金をくすねたせいらしい。

!これ、丸屋、ウチに店売ってくれますかねぇ

丸屋じゃなくても、売ってくれねぇだろ
と駿河屋。
これは嫌味ではなく、吉原者には市中の屋敷を売るべからずという奉行所のお達しがあるからだ。

そうか。そこをかわさねぇとなんねぇんですね
うちの親父がなぁ
と二代目大文字屋がすまなそうに頭を垂れた時、バッと顔が開いた。

お待ちどんぶり二人連れ。お連れしたぜ
扇屋が男を一人連れている。
目つきの鋭い、いかにも切れ者といった風貌の男だ。

扇屋さん。そのお方は?
蔦重が聞くと、扇屋はニヤリとした。

俺たちの奥の手ってとこさ
べらぼう次回放送
次回のべらぼうネタバレ第24話はこちら

べらぼうのネタバレとあらすじ:一覧
2025年5月

【べらぼう 5月】あらすじ一覧
第18話 5/4 (日) 歌麿よ、見徳は一炊夢
第19話 5/11(日) 鱗の置き土産
第20話 5/18(日) 寝惚けて候
第21話 5/25(日) 蝦夷桜上野屁音
2025年6月

【べらぼう 6月】あらすじ一覧
第22話 6/1 (日) 小生、酒上不埒にて
第23話 6/8(日) 我こそは江戸一の利者なり
第24話 6/15(日) げにつれなきは日本橋
第25話 6/22(日)
第26話 6/29(日)
べらぼう23話:筆者の見解

放送後に記載いたします~!
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